先端を駆ける研究者たち|環境生物工学研究室

自然環境と真摯に向き合い、理想的な環境浄化技術を開発したい。

中村 寛治 教授

【RESEARCH THEME】
微生物を利用した環境浄化

捕食されにくい環境浄化細菌を開発

河川水や大気、土壌、地下水などに含まれる環境汚染物質を分解し、無害化する力を持った微生物。
中村教授が取り組むのは、そのような微生物を進化させて、環境浄化のための実用的なエンジニアリング技術を開発しようという研究だ。
自然環境中から、対象の汚染物質を分解できる細菌を採取し、分解を担っている遺伝子を特定する。さらに、その分解遺伝子の働きを強化し、分解能を向上させた組換え体を作成していく。
しかし、この特別な働きをする細菌には、大きな弱点があった。
「研究初期の頃、河川水を採取して、それに環境浄化細菌を添加したら、なんと一晩で全滅してしまったのです。驚いて原因を探った結果、原生動物に食い尽くされたことがわかりました」。
せっかく分解能を向上させても、自然環境下ですぐに捕食されてしまうのでは、十分に力を発揮できない。
「そこで、まず被食者(=環境浄化細菌)と捕食者(=原生動物)の関係性を詳しく理解したいと考えました。この機構を解明していく中で、捕食に抵抗性のある天然色素“ビオラセイン”を合成する遺伝子を取得したのです」。
この遺伝子を環境浄化細菌中に導入し、捕食されにくい環境浄化細菌の開発に成功した。現在は、その細菌を使った浄化技術の実用化に取り組んでいる。

未知なるものに初めて触れる喜び

「環境中のさまざまな現象は、いつも我々の予想を超えています」。
自然環境を相手にしていると、それを痛感する。事前に決めつけてかかると、とたんに研究は進まなくなる。
「未知の現象に対して真摯に向き合い、それを理解しようと努めること。研究とは、その連続だと思っています」。
そこが難しさであり、面白さでもある。世に知られていない真実を、自分が一番先に見つけるという喜び。どんなに小さな発見でも、感動は大きい。
「完全なる趣味と言っても過言ではないほど、研究を楽しんでいます。だから、つらい仕事と思って研究している人には、負ける気がしません」。
研究とは、勝ち負けにこだわることではない。しかし、あえてそう表現するのは、自らを奮い立たせるためであり、若き研究者への激励でもある。
成果を出さないと、研究資金は獲得できない。研究者として生きていく厳しさから目を背けてはいけない。しかし、それをはるかに上回る、楽しさがある。
「未知なるものは、いくらネット検索してもヒットしません。それに初めて触れる喜びは、かけがえのないものです。これから研究者の道を目指す皆さんに、ぜひ経験してほしいと願っています」。

【PROFILE】
1983年東北大学大学院工学研究科土木工学専攻博士後期課程修了。栗田工業株式会社総合研究所研究員などを経て、2004年より東北学院大学工学部環境建設工学科教授。