東北学院大学

法学部

陶久教授のドイツ留学日記(66)

2016年06月16日

【ドイツ語―その1】
 6月の声を聴くと、在研修期間がすでに9か月過ぎたことに否応なく気づかされます。その間、ドイツ語にも少しは慣れ、それとともにドイツ語についての考えが少しずつ変化してきました。回数を分けて報告します。当地に到着してすぐの時には、次のように感じていました。160616-3-1.JPG
 9月中旬には、専門以外の本をドイツ語で読みたくなりました。そこで9月19日の午後は、Monika Maron, Stille Zeile Sechsを少し読みました。小説ですから私の知らない単語はたくさんありますが、比較的易しい表現で、ベルリンでのエピソードを回想しています。但し、DDR時代のことを懐かしむようなOstalgieとは、無縁です。引退した有力政治家の自伝を口述筆記するという仕事を中心にして、相手を替えその都度の対話に見え隠れする表情や態度、そこから推測される心理の襞を細かく描写し、時間や場所を移動させながら語りを進めていきます。当時の東ドイツの政治・社会状況は、描かれる人物の逃れがたい遠景ではあるものの、あからさまに姿を見せることはありません。160616-3-2.JPG但し、自然描写が殆どないことには驚きます。
 言うまでもなく、こちらに来てから読む文献は、日本のネットニュースを除くと、すべてドイツ語です。そうすると、随分昔に親しんでいた単語や表現がひょこっと顔を出すことがあります。それはちょうど、Maronの小説が、記憶の細い路地に密かに隠されている、「かつて見知っていたもの」に遭遇するのと似ているように感じます。尤も、私にとってその発見は、懐かしさと共に若干のほろ苦さも伴っています。
(写真は近くのスーパーに置いてある地域新聞/学生新聞)

法学部教授
陶久利彦(すえひさ としひこ)