東北学院大学

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【ヨーロッパ文化総合研究所公開講演会】アイドルからイコンへ 開催報告

2012年11月13日

  ヨーロッパ文化総合研究所は、10月27日(土) 13:00-16:00に押川記念ホールで「アイドルからイコンへ――古代キリスト教における神の表象」をテーマとした公開講演を行った。

121113-2_1.jpg カトリック教会や東方正教会の伝統においてキリスト教美術、特にイコンが重要な役割を果たしていることはよく知られている。しかしキリスト教がその発足当時からキリスト教美術に好意的であったかといえば、必ずしもそうではない。というのも旧約聖書は、神を不可視とし、生きている像を単なる「もの」とし、それを拝むことを偶像崇拝として禁止しており、ユダヤ教から分離して独自の宗教として発展した初期キリスト教も当初はその立場を継承していたからである。とすれば、初期キリスト教が地中海伝道に着手し、ヘレニズムの多神教世界に住む民衆にキリスト教の教えを伝える過程において、どのように当時の多神教の伝統と関わり、その後独自の豊かな宗教芸術を発展させることになったのだろうか。

  今回の講演会では、古代キリスト教における神の表象の問題に焦点を当て、最初に第一報告として私が「古代地中海世界におけるイシス・オシリス・セラビス崇敬の広まりと初期キリスト教」の題で講演を行い、ヘレニズム諸宗教との競合の過程でキリスト教がどのような発展を遂げたのかについて、最近のエジプトの考古学的発掘の成果に基づいて概観し、続いて第二報告として学外講師の鐸木道剛氏(岡山大学大学院准教授)に、「イコンの神学と「物質の聖化」――カルケドン公会議と芸術」との題で講演をしていただいた。
   
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  鐸木道剛氏はビザンティン美術、ロシア・東欧近代美術史の分野において国内外で活躍し、日本のイコン(特に山下りん画のイコン)の調査にも従事しておられる。これまでのセルビア共和国との文化交流の活動が評価されて、昨年11月にはセルビア国旗勲章第三等級章を授与されている。今回の講演では比較宗教学的立場から、現代に至るまでの日本各地の民間信仰の興味深い実例をも紹介しつつ、古代キリスト教史においてイコンの神学が成立する過程をわかりやすく説明された。キリスト教の信仰はユダヤ教とは異なり、「言の受肉」から出発し、神の子の受肉によって単なる「もの」が不可視の神を映すことが可能となったと主張する。それがイコンであり、「物質の聖化」とはその謂である。そして神と物質は、451年のカルケドン公会議の決議文にいうように、「混ぜ合わされることなく、変化することなく、分割されることなく、引き離されることなく知られる」。
  古代キリスト教の歴史における宗教芸術の成立の根拠は受肉の神学にあり、神の子の受肉によってこそ神と物質は繋がり、「地上の国」としての宗教芸術が成立するのである。

報告:文学部総合人文学科教授 出村みや子