東北学院大学

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日本民具学会研究会『被災民具への対処-現状と課題』開催

2013年09月30日

 9月21日、東日本大震災から2年を経た現在、レスキューされた民具を、その後どのように取り扱うのか、という課題について、被災地の文化遺産に携わる研究者と学生たちによるシンポジウム、「被災民具への対処―現状と課題」が開催されました。
 はじめに日本民具学会理事の香月節子氏があいさつに立ち、東北学院大学博物館の活動や、今回の研究会が被災地で活動している東北学院大学で開催されたことに対しての感謝が述べられました。
 これまで、被災した文化遺産については、有形、無形を問わず文化財レスキュー事業など多面的な対処がなされてきました。浮き彫りにされた課題は、破損した民具の修理をどのように実施するか、また、資料に関する情報、収集の履歴や使用法などのメタデータが失われたことへの対処方法です。

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 第一報告は、東北歴史博物館の小谷竜介氏より、最大の被災博物館である石巻文化センターの被災状況、およびメタデータに係る問題点と課題について報告が行われました。文化財レスキュー事業のスタート時の枠組みがフレキシブルであったために、資金運用面でスピーディだったことなど、現場での臨機応変な対応などエピソードを交えて報告しました。小谷氏は「こうした民俗資料・民具は、価値を問わず所在を把握すること、そのためにも人的ネットワークを構築することが大切だ。指定文化財は有事の際は比較的守られやすいが、未指定の文化財を守るための法的理由付けが重要」など、活動の先にある課題についても言及しました。
 続いての第二報告は、本学文化財レスキューの責任者である、文学部歴史学科の加藤幸治准教授より、本学の博物館が取り組んだ「文化財レスキュー」活動の事例や、その後の対応、そして、本学のメタデータ回復についての調査や取り組みなどについての報告が行われました。

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 座談会では、本学大学院文学研究科の沼田愛氏の進行で、会場に展示された民具について、学生たちがメタデータ回復のために実施した聞き取り調査の内容を 交えて様々な情報交換が行われました。参加した学生からは、昨年に続き今年も鮎川で開催された「牡鹿半島のくらし in 鮎川」での調査の様子や、漁業の町だとばかり思っていたが農業や養蚕なども行われていたことをこうした民具の話を聞くことで再確認できた、などの感想が述べられました。
 参加者は、国立歴史民俗博物館名誉教授、福島県立博物館や栃木県立博物館、新潟県立歴史博物館、金沢市や八戸市の学芸員、新潟県中越地震の文化財レスキューに携わった元学芸員、仙台市内の大学の民俗研究者など多数。一つの民具の解釈や使用方法などについて多くの事例や話題が飛び出す有意義な座談会となりました。
 最後に元日本民具学会会長の朝岡康二氏が、「昭和30年代に女川、歌津、気仙沼まで調査で歩いたことがある。その時泊まった沿岸部の民宿は、新しくて豪華なところが多かった。それが、チリ津波の被害から復興した後の町だったことを知った。今回の大震災で失われた沿岸部の町の暮らしがこれからどう再生、復興していくのか、その前と後を比較してみることが重要だと感じました」と総括。
 シンポジウムの最後は、文化財レスキューが保存している民具の収蔵室や、二酸化炭素殺虫処理法などの現場を見学し、当日のシンポジウムは閉会しました。

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 参加者は、翌22日に、石巻市に向かい、石巻市教育委員会の文化財担当者の案内のもと、被災した石巻文化センターや仮収蔵庫内の民具の状況を視察するなどして、全日程を終え研究会は無事に終了しました。

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 なお、11月3日(日)・4日(月)の2日間、石巻市のサン・ファン館に民具や資料を運び込んで、「牡鹿半島のくらし展 in 石巻」を実施することになっています。

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