2009年名古屋大学大学院多元数理科学研究科博士後期課程修了。大阪体育大学教養教育センター准教授を経て、2020年より東北学院大学工学部電気電子工学科准教授。
素数研究の歴史は古く、紀元前3世紀頃のユークリッド原論に、素数が無限に存在する証明が記されているほどだ。しかし、いまだに不明なことが多く、特に素因数分解の困難さは、現代の暗号理論の安全性に関わる重要な課題である。「私の研究目的の1つは、素数の新しい性質を追究することで、大きな素数の発見や暗号の安全性に寄与することです」。この研究では、素数の情報を握る「ゼータ関数」という特殊な関数を理論的に解析する。ゼータ関数の挙動を精密に捉えることができれば、それだけ素数の性質の理解が深まると考えられる。「また、ゼータ関数は整数論だけでなく幅広い分野に登場するため、その特殊値から多様な情報を得られます。挙動や特殊値の情報を、計算機を通じて可視化することで法則性を見いだし、根幹にある理論を解明したり、構築したりしています」。現在までに、ゼータ関数の挙動を精密に計算する明示式を示すことができた。これを足がかりに、さらに解析を進めていく。
「もう一つの研究は、整数論の問題を効果的に計算する量子アルゴリズムの開発や、量子コンピュータでも短時間で解けない整数論の問題を考えることで、暗号の安全性に役立てたいと考えています」。量子力学の原理を応用した量子コンピュータとは、従来は膨大な時間を要する計算も短時間で計算できるというものだ。まだ実用化されていないが、近年急激に技術開発が進んでいる。「実用化により、物流効率化など現在社会のさまざまな問題解決を進める効果が期待されますが、一方では素因数分解も短時間で解けるようになり、現在利用されている暗号の安全性が保証できなくなる危険性も含んでいます」。研究は主にシミュレーションで行なっているが、近年はクラウド経由で量子コンピュータに手軽にアクセスできる環境が整備されてきた。「それを機に、大学の卒研生と共に量子アルゴリズムの研究に取り組み始めました。これまでの研究で、多変数方程式の解を高速計算するアルゴリズムの作成や、整数論の問題を高速計算するアルゴリズムに関するWim van Dam氏のレクチャーノート執筆などの成果を得られています」。