大正改訳「マタイ福音書」 1917年(大正6年)

資料名

大正改訳 「マタイ福音書」

解説

名訳の誉れ高い大正改訳「マタイ福音書」の原稿です。明治元訳を改訂する作業は1906 年頃から本格的に始まったといわれています。この原稿は改訂作業の正本と考えられます。原稿用紙に下訳を手書きで記し、それに赤で訂正を加えています。欄外に別訳などの提案も記しています。

聖書協会には「マルコ福音書」を除いて、推敲を重ねられた入稿前の完全原稿が全て残されています。別所梅之助から寄贈され、現在、青山学院に保存されている大正改訳の稿本は、おそらく下訳の段階の原稿だと思われます。聖書協会にある稿本は最終原稿です。大正改訳は訳者らが分担して各書の下訳を行い、小委員会で度々検討された後、全体で審査し、訳文を決定したと言われています。委員会は主に青山学院神学部の一室で開催されました。校訂を済ませた訳文も何度も書き直し、1917年(大正6年)2月24日に改訳の筆を置いたと別所は翻訳作業の回想記「聖書和譯の事ども」において記しています。明治訳を改めるに際し、「読んで、聴いて分かる」訳文に仕上げるように努力を重ねた形跡が分かります。原稿を読み解くことで、最終段階で訳文にどのような修正が加えられたのか明らかになります。入稿前の原稿ということもあり、大規模な変更はなされていませんが、それでもいくつかの箇所で大小の変更が加えられていることが分かります。

大正改訳のマタイ福音書の下訳は、C・K・ハーリントン、川添万壽得、別所梅之助らによって行われ、1912年(明治45年)2月に校訂が終了しました。青山学院に保存されている聖書改訳委員会の議事録にも、1911年(明治44年)3月2日の日付で、マタイ1章の改訂作業の開始が記録され、翌年2月8日からルカ福音書の改訂に移っています。原稿は16章から18章です。