先端を駆ける研究者たち|磁性材料研究室

磁性材料と薄膜材料の研究で、次世代高性能磁石の開発を目指す。

嶋 敏之 教授

【RESEARCH THEME】
希土類系磁石材料、FePt規則合金薄膜、ナノ結晶薄膜の研究による
⾼磁化磁性材料の創製と革新的永久磁石材料の開発

薄膜を利用して高性能磁石を創製

省エネ化や高度情報化が進む現在、エコカー(EV、HVなど)の性能や、磁気記録媒体(HDDなど)の記録密度を向上させることが、緊急の課題となっている。
こうした製品の製造には、材料となる磁石が欠かせない。この磁石の性能が向上すれば、EV、HV車のモーターや大容量HDDなどの小型化・高性能化につながり、技術応用の幅も広がる。
嶋教授が目指すのは、磁性材料と薄膜材料の研究を通して、革新的な次世代高性能磁石を創製することだ。
「新たな材料設計に基づいた原子・分子単位でのナノ構造制御によって、キーマテリアルである従来型の鉄系強磁性体を遥かに凌駕する、高性能永久磁石材料の開発に取り組んでいます」。
モーターや磁気記録媒体の製造に用いられる磁性材料は、永久磁石の中で最も強力とされる希土類磁石「ネオジム磁石(Nd-Fe-B)」が主流となっている。
このネオジム磁石にはまだ不明な点が多く、現在は20%程度の性能しか発揮できていないと考えられている。
また、高温環境下では保磁力が落ちてしまうという欠点もある。このため、走行中高温になる自動車用モーターなどの製造には、ネオジム磁石にジスプロシウム(Dy)を添加して熱対策を施した材料が用いるのが、従来の方法だった。

希土類系磁石の解明で課題解決

だが、ジスプロシウムは原産国の輸出規制により、安定供給が危ぶまれているため、近年はジスプロシウムを使わずにネオジム磁石の性能を強化する研究が重要視されている。
「本研究室では、希土類系磁石材料の微細構造や磁化過程を解明し、これらの課題の解決を目指しています」。
さらに、FePt規則合金薄膜や次世代ハードディスク材料、ナノ結晶薄膜材料の磁気的性質など、関連する研究開発を同時に進めている。
こうした成果を基に、嶋教授が代表者を務める共同研究「軽元素添加による高磁化磁性材料の創製ならびに革新的永久磁石材料の開発」が、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の産学共創基礎基盤研究プログラムに2016年度新規研究課題として採択された。
「もともと車好きで、運転するだけでなくカーデザインにも興味があります。研究が役立って、自動車用モーターが小型化・高性能化すれば、デザインの自由度も上がるので楽しみです」。
EV、HV車に限らず、スマートフォンなどの情報通信デバイス、風力発電などの再生可能エネルギーシステムといった幅広い分野で、画期的な製品が生まれるかもしれない。磁性材料研究は、そんな可能性に満ちている。

【PROFILE】
1994年東北大学大学院工学研究科材料物性学専攻博士後期課程修了。東北大学金属材料研究所助手、東北学院大学工学部物理情報工学科助教授、同電子工学科准教授、同電子工学科教授などを経て、2017年より東北学院大学工学部電気電子工学科教授。