先端を駆ける研究者たち|バーチャルリアリティ研究室

VRシステムに触覚を付与し、医療や教育などに幅広く役立てたい。VRシステムに触覚を付与し、医療や教育などに幅広く役立てたい。

PROFILE

2017年北海道大学大学院情報科学研究科システム情報科学専攻博士後期課程修了。
東北学院大学工学部機械知能工学科助教を経て、2020年より同学部准教授。

VR空間で現実のような“手触り”を

現実世界で物を持ったり動かしたりする時は、身体の触覚を通して、物体の形や柔らかさ、材料の種類などを知る手がかりを得ている。これをバーチャルリアリティ(VR)空間で実現するには、触覚を作り出すソフトウェアや触覚を提示するデバイスが必要になる。
「本研究室では、物理に忠実な触覚を作り出すための実時間物理シミュレーション手法や、新しい原理による触覚提示デバイスを開発し、VRシステムに触覚を付与することを目指しています」。
ソフトウェア技術としては、柔らかい物体の感触を提示するため、物体の変形を数値解析する有限要素法の実時間計算が可能な、実時間物理シミュレーションの開発に取り組んでいる。この手法は、膨大な計算量を処理するために、効率の良いアルゴリズムの検討や、マルチコアCPUやGPUによる並列化によって高速計算を行う必要がある。高速化するだけでなく、不自然な振動が生じないように、安定したシミュレーションを実行することも重要だ。
「このようなシミュレーションに加え、柔軟物体のモデリングに関する研究にも取り組んでいます」。
モデリングは、医用画像から対象臓器の領域を抽出して解析用メッシュを生成する方法や、材料試験などによって物体の柔らかさを測定する方法で行う。

触覚VRを応用できる分野は多種多様

新しい原理による触覚提示デバイスとしては、機能性流体として知られる磁気粘性流体(MR流体)を用いたものや、錯覚を利用して圧迫感や重量感の提示を行うものなどを研究開発している。
「デバイス開発の多くは、他大学との共同研究で進めています。VRだけでなくロボットやCG技術など幅広い分野の最新知識が必要なので、研究者同士の交流や学会活動にも積極的に参加します」。
これまでの研究成果を応用し、VR空間で手術の練習ができる手術シミュレータや、介護に対する理解を促す排泄ケアシミュレータなどの開発をしている。また、水族館用に開発した、ナマコの感触を体験できるVRシステムを「東京ゲームショウ2017」に出展し、多くの来場者から好評を得ることができた。
「触覚VRは、作ってみないと実際にどのような体感を得られるかわかりません。ですから、開発したものが想像を超える効果を発揮できた時の感動は大きく、研究を続けていく原動力になります」。
現在は、本学大学院の環境建設工学専攻水工学研究室と共同で、防災・減災教育システムの開発を進めている。触覚VR技術を応用して実現したいことは山ほどあり、研究への意欲は尽きることがない。