先端を駆ける研究者たち|機能材料研究室

多孔質材料の特性を解明し、環境に優しく安価で実用的な材料を開発。多孔質材料の特性を解明し、環境に優しく安価で実用的な材料を開発。

PROFILE

2005年東北大学大学院理学研究科物理学専攻博士後期課程修了。
東北学院大学講師などを経て、2016年より東北学院大学工学部電子工学科准教授。

高価で高度な技術は使わず社会貢献

環境やエネルギーなど幅広い分野での応用が期待される多孔質材料。その原理を追究し、より良い機能を持つ材料を、可能な限り安価な素材や手法で創製すること。それが桑野准教授の研究テーマだ。
「高価で高度な技術は使わない、毒物など危険な物は使わない。環境に優しく実用的な材料を開発するために、そう心がけています。制約がある分、もどかしさも感じますが、そこに面白さも感じています」。
研究方法は、作製材料を触媒として使用するか、吸収・吸着体として使用するかによって異なるが、どちらも孔のサイズ・密度・形状などが機能を高める要因となるので、作製条件の違いによる形状制御の原理を解明していくことがベースとなる。たとえば金材料では、試料を真空装置内で加熱し、空気の混じらない純粋な気体の種類や気圧が、孔の構造にどう影響するかを調べる。また、炭素材料では可燃性廃棄物を試料として、気体の中で加熱することにより炭素材料に含まれる成分と構造の調整を行う。金属酸化物材料の場合は、作製条件の違いによりさまざまなナノ構造を形成するため、その形成メカニズムの解明に注力している。
「金材料は長年のデータが蓄積し、いよいよ成果が現れそうです。炭素材料は、廃棄物を利用できることはわかってきましたが、作製物の付加価値をもっと向上させたいですね。金属酸化物は形状制御で面白い結果が出始めたところ。これがうまくいけば、安価な材料で水から水素を得る水素生成触媒となったり、軽い充電池となったりと、いろいろな社会貢献ができると思います」。

寄り道しながら考えて目的を明確にしていく

研究者の道に踏み出す動機は、決して大げさなものではなかったという。
「テレビで原子の見える顕微鏡が開発されたと聞き、「原子が見てみたい」と思ったから」。
大学院で准教授を務めることは、研究者であると同時に教育者でもある。日々の指導を通して感じるのは、学生たちが「学びに対して拙速的」であるという印象だ。
「世の中の速度が速いので、手っ取り早く結果を求める気持ちはわかるけれど、寄り道も大切ですよ。異なる価値観や知識に触れることが、将来の糧となります。全てが学びであり成長の糧。それに対して、もっと貪欲になりましょう」。
研究者を目指す者に望むのは、自分の頭を使って考えられる人になること。そうすれば「人に使われる」のではなく「人のために働ける人」になる。言い換えれば、自発的に働ける社会人になれる。
「研究者とは原理について考える人、開発者とは使い方を考える人。将来どちらに軸足を置いて働くか、目的意識を持ちながら学ぶだけで、大学院での生活は変わりますよ」。