先端を駆ける研究者たち|メディアアナリシス研究室

AI画像分析技術の活用で、空想科学の道具を現実社会で実用化。AI画像分析技術の活用で、空想科学の道具を現実社会で実用化。

PROFILE

2003年北海道大学大学院工学研究科電子情報工学専攻博士課程修了。
北海道情報大学情報メディア学科助教授、東北学院大学工学部准教授を経て、2013年より東北学院大学工学部電気情報工学科教授。

人物を画像分析で判別し情報を表示

人気アニメ『ドラゴンボール』の作品内で使用されている「スカウター」というガジェットをご存じだろうか?
片目に着用するメガネ型端末で、グラス越しに見た相手の「戦闘力」を瞬時に解析し、その情報を数値化して視界に表示する機能を持っている。
そんなSF的ガジェットを、現実社会で実用可能な形で具現化しようというのが、金教授の研究テーマである。
「たとえば、お店の接客スタッフがスカウターをかけることで、対応するお客さんが以前購入した商品や、好みの傾向といった情報が表示されれば、より良いおもてなしができるようになるでしょう」。
だが、対象人物を画像認識で正確に判別するのは、簡単なことではない。たとえば来店客であれば、髪型・髪色、帽子・メガネ・マスク、化粧など、前回とは異なる外見要素が考えられるからだ。
「こうした変化を含めてAIに学習させるには、トレーニングデータとしての画像が大量に必要ですが、事前にそれらを入手することは不可能に近い。そこで、まずは1枚の画像から大量の疑似的訓練画像を生成する方法を研究しています」。
訓練画像は、本人と似ているようで似ていないことが不可欠だ。現在は、個人を特定する目・鼻・口などは変更せず、髪色・メガネ・皮膚のみを変形した疑似画像の生成方法を実験している。

常に悩み抜きながら挑戦し続けたい

「研究を通して大勢の人々の顔を観察しているうちに、顔の特徴をAIのように記憶する習慣がついてしまいました」。
そんな研究生活を送りながら、感銘を受けた1冊の本が、ベストセラーにもなった『悩む力』(姜尚中・著)だという。
100年前、急激に変化する社会の中で「どう生きるべきか」という苦しみに直面した作家・夏目漱石、そして社会学者のマックス・ウェーバーは、悩み抜くことで真の強さを獲得した。本書で描き出されるその姿勢に、今の時代を生きる研究者として深く共感するところがあった。
「悩みながら挑戦し続ける。そういう研究者を目指しています。常に新たな技術を習得し、時代に遅れないように」。
大学院に進む学生にも、悩む力を身に付けて成長し、ぜひ世界で活躍できる研究者になってほしいと願う。
スマートフォンのアプリやヘッドマウントディスプレーを用いたコンテンツなど、社会生活の中でAIやAR技術を活用するシーンは、ますます広がっている。
「スカウターだけでなく、AIやARはこれから誰もが使える技術の一つです。映画に出てくるようなヒューマンロボットの完成も、もう目前に迫っています。研究者の行く先には、これまでとは全く別の新しい世界が広がっていますよ」。