先端を駆ける研究者たち|機械力学研究室

電磁アクチュエータ+計測システムでインフラ維持管理デバイスを開発。電磁アクチュエータ+計測システムでインフラ維持管理デバイスを開発。

PROFILE

1986年東北学院大学大学院工学研究科機械工学専攻博士前期課程修了。
東北学院大講師、助教授などを経て、2006年より東北学院大学工学部機械工学科教授。

アクチュエータと検査デバイスを統合

巨大な構造物の損傷と疲労が、社会問題となっている。矢口教授は、こうした社会インフラの維持・管理に役立つ新たなデバイスの確立を目指している。
「橋梁やタンクなどの鉄製構造物においてさまざまな移動が可能なアクチュエータを開発し、これに検査用デバイスを統合させた計測システムを構築しています」。
成果の一例として、磁性体上を走行可能な振動型アクチュエータが挙げられる。本研究は、まず研究室で動作が発案されたアクチュエータ支持部の構造を改良し、任意方向への移動を確立させた。また、巨大構造物を想定し、複数本のケーブルを長距離牽引できるよう、推進部の磁気回路の改良、発生磁界の活用方法およびアクチュエータの群化について検討を行い、推進特性の改善をはかった。それらを並行して進め、最終的には各種のデバイスを統合させた計測システムを構築するという手順で行った。
「そのほかにも、管内検査用アクチュエータや高速搬送システム、電磁ポンプやモータなどを開発し、新たな原理の確立に取り組んできました」。
これらのアクチュエータは振動利用型(利振型)というもので、通常は排除されることが多い振動現象をうまく利用することにより、小型で高効率に作製できる。

失敗には成功のヒントと副産物がある

機械的な振動現象は、古くから有害なものとして取り扱われ、振動を低減・制御する研究は今でも盛んに行われている。矢口教授も以前はそれに取り組んでいた。その一方で、機械振動が有効利用された事例としては、超音波モータ、ポンプ、発電装置およびコンベアなど、わずか数例にとどまっている。
「そうした状況の中、電磁力と振動を組み合わせて開発されたアクチュエータは、圧電素子と振動の結合型に比べて少ないように思えました。そこで、新たな電磁─振動型アクチュエータの開発は興味深い試みだと感じられ、電磁力を用いた効率的な励振方法と振動エネルギーの有効利用を研究しようと思い立ったのです」。
研究においては、なかなか結果が得られず、改善を図ると新たな短所が発生し、思い通りに進まない中で、突然結果が得られる瞬間があるという。
「失敗には必ずヒントがあり、これを繰り返すことで副産物が生じることが多いものです。困難の中にこそ、発見と面白さがあります。大学院へ進学し、思いっきり研究活動を楽しんでほしい」。
失敗は成功の基という教授の研究姿勢に薫陶を受け、研究室の学生たちも途中で諦めずにやり遂げる力を培っている。
「頼もしい若き研究者とともに、これからも新たな動作原理を確立し、実用化を目指していきたいと思っています」。