先端を駆ける研究者たち|図形情報処理研究室

3次元の図形情報処理を、さまざまな分野の研究・開発に応用。3次元の図形情報処理を、さまざまな分野の研究・開発に応用。

PROFILE

2013年岩手大学大学院工学研究科電子情報工学専攻博士後期課程修了。トヨタ自動車株式会社、
福井工業大学環境情報学部経営情報学科准教授などを経て、2017年より東北学院大学工学部情報基盤工学科准教授。

考古学研究を3次元データ活用で支援

3次元データの計測・処理を応用し、木下准教授はさまざまな研究を行っている。その1つが「考古遺物の形状的特徴分析および復元補助に関する研究」だ。
「考古学において、複数の場所で出土した土器の類似性から、民族の移動などを推定する研究があります。類似性に関する従来手法では、材質や目視により主に分析されていますが、幾何学的な特徴量を用いて、類似性を数値化したいと考えました」。
そこで、人の顔が付いた遺物(土偶)の表面を3次元点群としてコンピュータに取り込み、幾何学的なアプローチによって類似度を算出する研究を進めている。
「現在までに、目視では異なると思われる土偶の顔について、その違いを数値的な差として表現することまでは可能になりました。考古学者の先生にも有効な結果だとの所見をいただけています」。
また、破損した状態で出土された土器の復元にも3次元データを応用している。
「土器の破片を3次元点群として取り込み、3次元空間上で仮想的に組み上げ、欠落部分があれば、それを埋めるための3次元形状を作成します」。
手作業で土器片を完全体に復元するには経験が求められ、さらなる破損の危険も伴うが、この復元補助の研究が進めば、熟練者でなくても復元作業が可能になる。

データ圧縮技術や歯科医工学にも応用

土器の復元に関連して行っている「3次元データの連続性を考慮した欠落補間に関する研究」には、データ圧縮技術の開発という、もう1つの研究目的がある。
「欠落補間は本来、欠落部を推定するデータの生成が目的ですが、これを応用して、データ保存時に幾何データの一部を消去し、読み込み時に欠落部を推定して復元する圧縮方法を研究しています」。
これにより、低速度回線でも巨大な3次元データの転送が可能になる。検証実験では10%程度のサイズにまで圧縮でき、有効性が確認された。今後さらに圧縮率を上げていけるという。また、別の研究テーマとして「CTデータから生成されるポリゴンメッシュデータの再構築」にも力を入れている。
「レントゲンデータをもとに、総入れ歯を自動生成することを目指しています。従来は、患者から型取りして石膏で土台を作成しますが、これをCTデータと3Dプリンタによって自動化できれば、医師の熟練度を問わず、フィット感の高い総入れ歯を低コストで作れるようになります」。
多彩な研究テーマに取り組むなか、常に心がけているのは、基礎理論の理解を決しておろそかにしないことだという。
「近年は便利なツールが多数あり、基礎理論の概要だけ理解すれば、容易に分析できるようになりました。ですが、基礎を深く理解することが、応用力を培う大切な糧となります。研究者を目指す皆さんに伝えたい、自身の経験に基づくアドバイスです」。