先端を駆ける研究者たち|水工学研究室

3次元的に捉える観測手法で、波浪変形や土砂輸送を“見える化”。3次元的に捉える観測手法で、波浪変形や土砂輸送を“見える化”。

PROFILE

2012年北海道大学大学院工学院環境フィールド工学専攻博士後期課程修了。
東北大学大学院工学研究科助教、東北学院大学工学部環境建設工学科講師などを経て、2019年より東北学院大学工学部環境建設工学科准教授。

複雑な波浪変形・土砂輸送を定量化

海岸に打ち寄せる波は、川から流出する土砂を運び砂浜を形成する一方で、台風時には高波となって海岸侵食を引き起こす。波による土砂輸送の解明は、沿岸域の防災・減災のために必要不可欠であり、これまで多くの研究が進められてきたが、砕波(波が砕ける現象)の際の波の動きや、水面下における土砂の動きは非常に複雑であり、それらを3次元的に捉える観測手法はまだ確立されていない。
「こうした波浪変形や土砂輸送を可視化し、定量化する計測法の開発に取り組んでいます。データ解析によって現象の解明を目指し、数値シミュレーションの高度化に貢献したいと考えています」。
研究は、現地での波浪観測手法の開発および水路実験による計測手法の開発という2方向のアプローチで行っている。
「現地ではUAV(ドローン)を用いた観測を試みています。撮影した動画像から平面的な波の伝播を捉えるだけでなく、2台のUAVによる2視点画像を合成して、砕波の3次元的な形状を捉える手法を開発中です。これを実用化できれば、海岸工学分野における重要なツールになるでしょう」。
また、水路実験では、津波下での水の動きや土砂輸送過程を解明するため、特殊な照明とデジタルカメラを用いて、水中に巻き上げられた浮遊砂濃度の3次元的分布を測る技術を開発・試験している。

見えないものを見えるようにしたい

現在の海岸工学分野において、すでに数値シミュレーションは欠かせないツールとなっている。だが、それを基に港湾施設などを設計している一方で、そもそも現象として見えていない、解明されていない部分が残されているのも事実である。
「見えないものを見えるように、測れないものを測れるようにすることにモチベーションを感じます。子供の頃から、水面の動きや水の流れを眺めるのが好きでした。興味の対象をより深く知るために、調べて考えてアイデアを実行していく過程を心から楽しみつつ、社会貢献という結果につなげていきたいと思っています」。
開発中の計測法を実用レベルに高めていくのはもちろんのこと、さらに広い意味で「見えないものを見えるように」する活動にもチャレンジしている。
「震災以降、様々な対策を取り入れた防災まちづくりが行われていますが、人々がそれを理解し、被災時に適切な行動をとることが重要です。そこで本学の機械工学専攻バーチャルリアリティ研究室と連携して、津波数値シミュレーションと画像解析技術を応用したゲームを開発し、子供を含めた様々な人が防災まちづくりを見えるようにすることを目指しています」。
こうした共同研究などの交流によって刺激を受け、研究者として成長を続けていける環境も、大学院の大きな魅力である。