先端を駆ける研究者たち|建築史研究室

近現代建築から“物語”をひもとき、都市づくりの未来をより豊かに。近現代建築から“物語”をひもとき、都市づくりの未来をより豊かに。

PROFILE

2000年東北大学大学院工学科都市・建築学専攻修了。株式会社フジタ建築設計センター、秋田県立大学建築環境システム学科助教、
同准教授などを経て、2016年より東北学院大学工学部環境建設工学科准教授

歴史に埋もれた価値ある偉業に光を

戦後70年以上が経ち、コンクリート建築が文化財になる時代が到来した。だが、それらの文化財は人知れず姿を消していく。
「寺社や古民家などの古建築に比べて十分に認知されていない近現代建築に焦点を当て、その価値を再評価することで、地域の歴史文化を活用した“真に個性ある都市づくり”に貢献したいと思います」。
﨑山准教授の研究目的は、文化的で美しい景観の価値を客観的に示し、後世に継承するだけでなく、近現代建築史を通して地方都市の成り立ちを解明し、地域を見直す新たな視点を提示することだ。
「現代の都市や地域を創った先人たちの多くは、歴史に埋もれています。そうした人々の功績に、もっと光を当てたい。歴史的建築を単なる過去の遺物として見ずに、関わった人や当時の社会的背景、現在への影響を含めて複眼的に捉える。そうすることで、過去が、私たちと繋がる“物語”として立体的に浮かび上がってきます」。
研究方法は、公文書や設計図面・工事仕様書・写真などを収集し、読解や分析を行う文献調査と、実際に現地に足を運ぶ遺構調査を併用している。
「明治から大正時代の都道府県庁で、都市づくりをリードした技術者のデータベースを作成しています。彼らの立場は現在では地方公務員に当たりますが、地方自治の概念が成立する以前にあって、自らの技術を武器に複数の都道府県や省庁間をダイナミックに移動していたことがわかってきました。海外の植民地へ赴任した記録もありグローバルな人材移動が日本を支えていたようです」。

先人への敬意と独創が新たな道を拓く

調査対象は豊富にあり、身辺に目を向ければ、学内にも調査中の建築物がある。文化財登録を視野に入れている物件もあるという。
「研究には、誰も知らなかった事実がわかる喜びがあります。定説と異なる事実を見出したり、先行研究で解明されていなかったことを突き止め、注目されていなかったものに光が当たる。新たな知的情報を世に提示する行為は、とても創造的です」。
そんな﨑山准教授は、工学者・西澤潤一の著書『独創は闘いにあり』と、芸術家・岡本太郎の著書『自分の中に毒を持て』を座右の書として挙げる。
「この2冊は、学術と芸術という、一見すると対極の分野で一流を極めた先人によるものですが、共通する信念があり、勇気をもらえます」。
大学院を目指す若者に伝えたいのは、進むべき道を示唆してくれる膨大な先行研究に対して常に敬意を払い、同時に批判的な視点を忘れないことだ。
「五里霧中の道を歩むために必要なのは、トライ&エラーを繰り返すこと。特にエラーを前向きに捉える姿勢です」。