夢を追う若き研究者たち

廃炉作業に役立つ半導体レーザ装置を開発。

博士前期課程2年 オプトメカトロニクス加工研究室(松浦研究室)
菅原 颯斗 さん

[RESEARCH THEME]
半導体レーザ装置の開発と評価

レーザ技術の利用分野は、加工・医療・通信など多岐にわたる。加工では切断・穴あけ・溶接などに用いられ、精密加工技術の進化に寄与している。「私の研究テーマは、原発の廃炉作業に用いる半導体レーザ装置の開発です。燃料デブリを、より効率的かつ精密に切断・分解することで、除去作業の進展に役立てたいと考えています」。先行研究では、廃炉を目的としたレーザ加工と研削加工の組み合わせによる高効率除去加工が発表されていた。「本研究では、出力を向上して応用範囲を広げるため、発生が容易な半導体レーザを光源に用いました」。光ファイバで伝送する高出力半導体レーザ装置を製作し、照射実験による評価を行っている。すでに、除去効率が向上するデータは得られているが、今後もさらなる向上を目指す。「学部生の期間だけでは研究に限度があり、レーザをより深く研究したいと思って大学院に進みました」。研究室の選択においては、東日本大震災を経験し、原発事故に心を痛めたことも動機の1つになった。「もともと機械加工に関心があり、さらに本研究室では廃炉作業を見据えたテーマに取り組んでいると知って、研究に参加する意義を感じました」。現在の研究テーマを追究しつつ、将来は医療や食品加工などにも適用範囲を広げていきたいという。企業に就職しても研究者として初心を忘れず、社会に貢献したいと考えている。

【PROFILE】
2019年宮城県泉館山高等学校卒業。2023年東北学院大学工学部機械知能工学科卒業。卒業論文タイトル「レーザ援用研削におけるレーザヘッドの評価」。

電圧安定化技術で自然エネルギーの普及へ。

博士前期課程2年 先端電力工学研究室(呉研究室)
五十嵐 隼斗 さん

[RESEARCH THEME]
マイクログリッドにおける電力系統連系時の電気特性および安定化制御に関する研究

太陽光や風力などの自然エネルギーは、天候や環境条件により発電量が大きく変動するため、接続する電力系統への悪影響が懸念される。「それを解決し、安定利用するための技術として注目されているのが、マイクログリッドです。私は、マイクログリッドシステム内の母線電圧を安定化させる研究に取り組んでいます」。具体的には、太陽光・風力発電の負荷変動による直流・交流母線の電圧変動に対し、2種類の電力貯蔵装置による充放電制御、およびバックアップ電源の自動電力補償による協調制御を行い、安定化効果を確認する。「本学で設計・導入したハイブリッドマイクログリッド実験システムを用いて実験検討しつつ、同装置を模擬したシミュレーションモデルで実験の有効性を検証。双方で再現性を確認しながら調整を行い、先行研究より優れた電圧安定化に成功しました」。研究のきっかけは、2018年の北海道胆振東部地震にて道全域でブラックアウトが発生したことだった。「本研究室が取り組むマイクログリッドシステムが災害に強い送配電システムだと知って興味を持ち、普及の糸口となる研究がしたいと思いました」。今後は、水力発電や電気自動車など実験対象を広げ、地絡事故を想定した研究などにも取り組むという。また、修了後は大手総合電機メーカーの研究開発職に内定しており、人々の生活に貢献する製品の開発を目指す。

【PROFILE】
2018年山形電波工業(現:創学館)高等学校卒業。2022年東北学院大学工学部電気電子工学科卒業。卒業論文タイトル「酸化処理における酸化鉄・Ni系薄膜の分光特性の評価」。

人の情動を解き明かし、快適さに貢献したい。

博士前期課程1年 生体機能情報工学研究室(加藤研究室)
栗原 大地 さん

[RESEARCH THEME]
自発脳波に基づく快情動に関連する大脳神経活動の評価に関する研究

快・不快などの情動(emotion)を電子工学的アプローチで研究することは、医工学や製品・サービス開発など幅広い分野への応用につながる。「私の研究テーマは、人の情動反応に関連する大脳神経活動の知見を得ようというものです。また、その知見を映像システムや快適な空間づくりに役立てたいと思っています」。計画中の実験手法は、被験者にIAPS(国際情動画像集)の画像を呈示して自発脳波を測定する。また、被験者にはTDMSという尺度を用いて呈示画像を評価してもらう。脳波データから抽出した特徴量やTDMSの評価値を基に、快情動に関わる大脳神経活動を検討していく予定だ。「脳波データの解析は、近年注目されるWavelet Synchro-Squeezed変換という手法を使用し、さらに機械学習の手法も取り入れる予定です」。大学院への進学は、大学入学時点で決めていた。学部4年次から加藤研究室に参加し、先輩方の研究内容を見て脳波の研究に魅力を感じたという。「もともと情動というものに興味がありました。それを解析する新手法(Wavelet Synchro-Squeezed変換)を加藤教授が提案してくださり、面白そうだと思いました。一つのことに熱中する性格なので、研究生活はとても充実しています。今まで知らなかった知識が増えていく楽しさもあります」。

【PROFILE】
2020年福島県立葵高等学校卒業。2024年東北学院大学工学部電気電子工科卒業。卒業論文タイトル「Wavelet Synchro-Squeezed変換に基づく自発脳波解析」。

建物の基礎に関わる免震工法開発で減災を。

博士前期課程2年 構造動力学・維持管理学研究室(李研究室)
今野 倖太朗 さん

[RESEARCH THEME]
ボールベアリングを用いた転がり免震効果と残留変位低減手法に関する研究

2015年のネパール・ゴルカ地震をきっかけに、伝統的な石積み組積造の建物に対し、基礎上で滑らせる免震機構を導入することが検討された。「その一環として、ネパール山岳地帯をフィールドに、現地で施工性の高い免震工法の開発を目指しています」。本研究は、IM型ボールベアリングを使用した転がり免震システムを提案し、振動台実験により効果を確認する。「実験装置として、建物の基礎を想定したコンクリートの周りに緩衝材を設置し、一軸方向に調和振動波および地震波を入力して加振させることで、免震性能を検討しています」。安全性と使用性の両面から性能評価することを目的に、転がり係数および残留変位に着目し、最適な免震装置や緩衝材の組み合わせを模索する。「調和振動波の振動台実験では、高い免震効果が確認できています。また、緩衝材を使用することで、さらに安定性が増す結果を見出せました」。今後はさまざまな地震波を適用した実験を重ね、研究室で考案した免震モデルケースの実現を目指す。「東日本大震災を経験したことで、耐震に興味を持ちました。そこから構造振動学に魅力を感じ、深く追求したいと思って大学院に進学しました」。将来は、研究生活を通して得た知見を防災・減災に役立てたいと願う。「技術者として、多くの構造物の劣化診断や耐震的補強に携わり、社会に貢献できる仕事がしたいです」。

【PROFILE】
2019年私立東北学院高等学校卒業。2023年東北学院大学工学部環境建設工学科卒業。卒業論文タイトル「開発途上国の組積造耐震化に向けた転がり免震に対する基礎的実験」。