夢を追う若き研究者たち 2021年度

触覚VR普及を目指すモデリング研究。

博士前期課程2年 バーチャルリアリティ研究室
鈴木 裕也さん

【RESEARCH THEME】
バーチャルリアリティにおける触覚提示の実現を目指した柔軟物体モデリング

バーチャルリアリティ(VR)で柔軟な質感の物体に触れるコンテンツを作成するには、まずその物体をモデリングする必要がある。しかし、柔軟物体のモデリングには多大な手間がかかる。
「そこで、モデリングを簡略化し、従来よりも低コストで触覚VRコンテンツの開発を可能にしたいと考えました」。
実験は、柔軟物体サンプルの力覚情報を、3軸ロボットやモーションキャプチャなどで測定し、その取得情報と最適化アルゴリズムを用いてシミュレーションする手法で行う。まだシンプルな実例ではあるが、数値解析ソフト「MATLAB」による最適化アルゴリズムを実装することで、手応えのある成果を得ている。
「大学時代、ディープラーニングや機械学習とVRを組み合わせて、何か面白いことがしたいと考えていたところ、本研究室に出会いました。やりたいことが明確になり、大学院に進んでじっくり研究に取り組もうと決めました」。
触覚VR技術は、エンターテインメントや工業、教育など幅広い分野で活用できる。手術シミュレーションへの応用など、医療の発展にもつながる。
「大きな可能性を秘めた触覚VRを、より導入しやすくする研究で、普及促進の役に立てたら嬉しいです」。

【PROFILE】
2015年クラーク記念国際高等学校卒業。2019年東北学院大学工学部機械知能工学科卒業。卒業論文タイトル「負圧駆動人工筋肉を用いたハプティックグローブの開発」。

次世代移動通信システムの基盤づくりを。

博士前期課程2年 ワイヤレス情報通信研究室
石井 洋平さん

【RESEARCH THEME】
非直交多元接続(NOMA)における比例公平性とチャネル容量に関する研究

第5世代移動通信システム(5G)への移行が進む中で、周波数帯域の利用効率向上は、ますます重要な課題となっている。
「非直交多元接続(NOMA)とは、ユーザ間の干渉を許容して、同一リソース上に複数ユーザの信号を多重することで周波数の利用効率を向上させる技術です」。
だがNOMAには、送受信機の負荷が大きいことやシステム全体の偏りなど、まだまだ克服すべき問題点がある。
「基地局からの送信電力割り当て方法やユーザへのリソース割り当てスケジューリングを、シミュレーションを用いて評価することにより、これらの問題を改善するのが私の研究テーマです」。
次世代移動通信システムの基盤づくりに貢献したい、という思いが芽生えたのは、東日本大震災がきっかけだった。
「安定した通信ができることのありがたみを痛感し、将来は通信に関わる仕事に就きたいと思いました。高校、大学と本学院で学び、大学院では内部進学の制度を活用して学部の時点で大学院の講義を先取りし、現在は研究中心の生活ができています」。
研究で行き詰まることもあるが、教授や友人との会話、趣味のランニングや温泉巡りなどでリフレッシュしている。
「何気ない会話からヒントを得られたりして、研究生活には人とのコミュニケーションが大切なのだと実感しています」。

【PROFILE】
2015年東北学院高等学校卒業。2019年東北学院大学工学部電気情報工学科卒業。卒業論文タイトル「非直交多元接続(NOMA)における干渉除去に関する研究」。

ESD電磁ノイズの解明に一石を投じたい。

博士前期課程2年 電子応用システム研究室
加藤 健人さん

【RESEARCH THEME】
ESD(静電気放電)に伴う電磁雑音の放射特性

電気・電子機器にとって、ノイズは厄介な存在だ。なかでもESD(静電気放電)による電磁ノイズは、インパルス性の過渡現象や、広帯域な周波数特性を持つために、誤動作や故障を引き起こしやすい。
対策に向けた研究は行われているが、その性質には、まだ不明瞭な点が多い。
「ESDによる電磁放射メカニズムについて議論を進めるためには、推論の基礎となるデータが必要です。さまざまな測定方法を試して、解明に貢献したいと思います」。
真鍮製の球電極対に電圧を印加し、球と球の間隔を徐々に接近させて、発生した放電の磁界をプローブで測定する。この実験により、ESDによる磁界がダイポール(双極子)放射であることが確認できた。
「今後は、電極形状を球から棒に変えた実験や、ESDによる電界についても検討していく予定です。少しずつ特性がわかっていくことに、手応えを感じています」。
着手のきっかけは、先輩の研究を引き継ぐという形だった。
「大学院進学を決めたのも、先輩の影響が大きかったですね。先輩が出席する学会に付いていき、学会発表に魅力を感じました。いつか自分もここに立ちたいと」。
研究生活の中で、将来は宇宙に関わる仕事をしたいという抱負も生まれた。先を進む者の背中を追いかけることもまた、新たな研究者を育てる糧となる。

【PROFILE】
2015年宮城県工業高等学校卒業。2019年東北学院大学工学部電子工学科卒業。卒業論文タイトル「シールデッドループプローブを用いたESD近傍磁界ピーク値の導出」。

コンクリート構造物の耐久性を高めたい。

博士前期課程2年 コンクリート劣化診断研究室
尾形 拓海さん

【RESEARCH THEME】
樋門コンクリート構造物に発生したひび割れの再劣化に関する研究

樋門(樋管)とは、用水取入や内水排除を行う地下水路のことで、堤防を貫通して設置されるコンクリート構造物だ。
近年は、経年劣化による漏水や変状が発生しており、その対策が進められているが、ひび割れ補修を行った箇所が再劣化してしまう事例が多発している。
「そこで、まず再劣化の要因を解明し、さらにそれを予防できる補修・施工方法を確立したいと考えています」。
実験方法は、擬似的に作製したひび割れに各種コンクリート用補修材を注入し、研究室で開発した「X線造影撮影法」や「簡易透気試験機」を応用して、補修材の充填状況や緻密性を確認する。併せて、樋門の現場調査による検討も行っている。
「これまでに、特定の補修材が充填状況に大きな影響を及ぼすこと、また、ひび割れ内部の汚れや凍結融解などの環境的作用がどう影響するかが分かってきて、少しずつ手応えを得られています」。
今後は、中性化によるコンクリート内部の鉄筋腐食や、透気係数と中性化深さとの関係についても研究し、維持管理のための長期予測を検討していく予定だ。
「コンクリートは材料・配合・養生方法など作り方のわずかな違いで、性質が良くも悪くも多様に変化します。そこに大きな魅力を感じ、より良い構造物を作れる技術者を目指して研究に取り組んでいます」。

【PROFILE】
2015年塩釜高等学校卒業。2019年東北学院大学工学部環境建設工学科卒業。卒業論文タイトル「樋門・樋管に発生したひび割れの補修方法に関する研究」。