夢を追う若き研究者たち 2022年度

省エネ・高効率の磁気アクチュエータ。

博士前期課程1年 機械力学研究室
佐藤 隆清さん

【RESEARCH THEME】
磁気アクチュエータの開発

アクチュエータは、自動車や産業機械、医療機器、家電など無数の物に利用されている。現在、その多くがモータ類であり、社会で消費されるエネルギーのうち、モータが占める割合は非常に大きい。
「モータに替わる新たな磁気アクチュエータを開発し、より良い効率で駆動する動力源をつくることで、社会の省エネルギー化に貢献したいと思っています」。
現在取り組んでいるのは、電磁石とネオジム磁石を用いた振動体を製作し、その振動を利用して移動するアクチュエータを試作するという研究だ。
「まず簡易的なモデルによって必要なデータが取れたので、応用モデルを試作して実験しています。原理的には可能なはずなのに、なかなか良い結果が出ません」。
試行錯誤を重ねる日々の中では、明確な変化は見えにくい。だが、数カ月前のデータと比較すると、少しずつ駆動効率が良くなっている手応えを感じる。
「ひたすら試作と検討の繰り返しで、心が折れそうにもなりますが、そのぶん、わずかでも進展があると喜びも大きいものです。試作したポンプから一滴の水が出ただけで、モチベーションが上がります」。
省エネ・高効率のアクチュエータは、さまざまな分野で必要とされる。自身の研究が将来どこへ向かっていくかは未知だが、必ず社会貢献につながると信じている。

【PROFILE】
2017年仙台市立仙台高等学校卒業。2021年東北学院大学工学部機械知能工学科卒業。卒業論文タイトル「超磁歪材料を用いたポンプの試作」。

再生可能エネルギーの電力供給を安定化。

博士前期課程2年 先端電力工学研究室
鶴田 祐天さん

【RESEARCH THEME】
ハイブリッドマイクログリッドシステムにおける高調波解析および抑制の研究

政府が「2050年カーボンニュートラル」を宣言するなど脱炭素化が進む中、再生可能エネルギー有効利用に関する研究の重要性は、ますます高まっている。
だが、再生可能エネルギー発電には、電力供給が不安定という課題があるため、電力系統へ与える悪影響を緩和して安定化するシステムの構築が欠かせない。
「マイクログリッドシステムの構築は、電圧の安定化制御が重要となるので、私の研究では高調波という観点から解析及び抑制の検討を行っています」。
2021年3月には、オンライン上の学会で高調波解析におけるアルゴリズムについて発表した。これまでに進めた直流母線での研究を基に、STATCOM(無効電力補償装置)を導入するなどして、交流系統も含むさらなる安定化を目指していく。
「マイクログリッドは今後の社会に欠かせない重要なシステムであり、学部生時代から興味を持っていました。より深く研究したいと考え、大学院へ進みました。じっくり時間をかけて研究に打ち込めるのが、大学院の魅力だと感じます」。
ひたむきに続けた研究の成果は、将来の道を拓くことにもつながり、第一志望の就職先から内定を得ることができた。
「大学院で学んだ知識や経験を生かし、これからは仕事を通して社会基盤を支えていきたいと思います」。

【PROFILE】
2016年宮城県富谷高等学校卒業。2020年東北学院大学工学部電気情報工学科卒業。卒業論文タイトル「FFTアルゴリズムを用いたDC/ACインバータ回路の高調波解析」。

スピンデバイス研究でビッグデータ時代に貢献。

博士前期課程2年 スピンエレクトロニクス研究室
渡邊 彩恵さん

【RESEARCH THEME】
MnFeGa合金薄膜の作製と磁気特性

ビッグデータの活用が進む現在、記録デバイスの性能向上やITデバイスの低消費電力化が、以前にも増して求められている。
「より優れたスピンデバイスの実現に向け、超低消費電力型のメモリデバイスに適した新規磁性薄膜材料を作製するのが私の研究です」。
具体的には、超高真空スパッタリング装置を用いて数原子層程度の厚さに原子を堆積し、熱処理温度の変化による磁気特性の最適化について検討している。
「実験の結果、極薄MnFeGa合金薄膜を作製することで磁気異方性の向上が確認できました。また、Ga量を多く添加した合金では、磁気的な構造に変化があることがわかりました」。
研究は常に予想外の連続だ。良いデータが得られた場合はもちろん嬉しいが、予想外の結果にも、また別の高揚感がある。
「なぜその特性が得られたのか、考えることが楽しいです。昔から宇宙について考えることが好きで、宇宙を構成している電子や原子も興味がありました。電子のスピンを応用した新規極薄磁性薄膜材料の探索についての研究には、物事の本質を知る面白さがあります」。
現在の研究に取り組んだきっかけは、本研究室の指導教員から「迷ったら難しいと思う分野を選択するとそれは自分の力になる」という言葉を授かったこと。
「わからないことは自分で徹底的に調べるだけでなく、指導教員に相談して助言をいただき、貪欲に知識を吸収しようと心がけています。本質を知りたい、という強い思いを原動力に、今後も研究を続けます」。

【PROFILE】
2016年常盤木学園高等学校卒業。2020年東北学院大学工学部電子工学科卒業。卒業論文タイトル「MnFeGa合金薄膜の作製と磁気特性」。

断層変位による道路橋の損傷状況の体系化。

博士前期課程2年 インフラストラクチャーレジリエンス研究室
松井 友希さん

【RESEARCH THEME】
地盤変動によって損傷を受けたワーレントラス橋を対象とした地震応答解析に関する基礎的研究

断層変位による橋梁被害は、2016年の熊本地震で初めて深刻な問題と認知された。そのため、国内外の橋梁設計基準には、まだ具体的な対処法が示されていない。
「そこで、さまざまな断層変位の状況におけるトラス橋の解析を行い、状況ごとの被害を体系化して得られた知見を基に、損傷を軽減する補強法の開発・提案を目的とした研究に取り組んでいます」。
研究は、土木研究所などが熊本地震の調査に使用した解析ツール「Sean FEM」を用いて、モデル化した仮想のトラス橋を対象に、断層変位の影響を考慮した地震応答解析をするという方法で行っている。
「断層変位の影響を照査しデータを収集することで、トラス橋は断層変位への耐性がほとんどないことがわかってきました。また、地震応答解析では、熊本地震の本震の地震波を加振することにより、断層変位で損傷を受けた箇所に力が集中して損傷が拡大することが明らかとなりました」。
これらの成果を土木学会全国大会などの学会で発表してきたことで、断層変位の危険性が認識されるようになり、確かな手応えを感じているという。
「大学院での研究生活を通して将来の目標が明確になり、日本の耐震設計をリードする会社に内定をいただけました。耐震・防災の第一線で活躍する技術者を目指し、社会に貢献したいと思います」。

【PROFILE】
2016年宮城県富谷高等学校卒業。2020年東北学院大学工学部環境建設工学科卒業。卒業論文タイトル「地盤変動時にトラス橋に生じる挙動に関する数値解析的検討」。