夢を追う若き研究者たち 2023年度

人間の行動特性に着目した歩行支援装置。

博士前期課程2年 人間─機械システム学研究室
小原田 聖和さん

[RESEARCH THEME]
視覚障がい者の歩行誘導のための頭部回旋装置の開発

視覚障がい者の社会活動への参加を推進するためには、安全で使いやすい歩行支援技術の向上が不可欠だ。
近年開発された支援器具の多くはセンシング機能を備えた電子白杖で、障害物の情報を音や振動で使用者に示すものだが、使用者が回避方向を判断するのが難しいという課題があった。
「それを解決するため、回避方向への歩行を誘導する支援装置の開発に取り組んでいます」。
歩行行動の解析研究により、人が進路変更を行う時は、まず顔をそちらに向け、それに追従して体幹が回旋するという特性が報告されている。
「その特性に着目し、頭部を他動的に回旋させて自然な体幹の動きを生じさせ、歩行を誘導する装置を製作し、実用化に向けた研究を進めています」。
福祉分野に貢献したいという動機で、人間─機械システム学研究室を志望した。研究室配属の面談で梶川教授にアドバイスを受け、学部4年時から現在の研究テーマに取り組み始めた。
「装置を作って終わりではなく、改良や機能の追加など、やりたいことの展望は広がっていきます。研究を突き詰めていくためには、大学院への進学は必須だと思いました」。
また、大学院では英語論文や外国の研究に触れる機会も多く、海外志向が高まった。海外に事業拠点を多数持つ企業へ内定したため、若手のうちから海外勤務を経験し、グローバルな視点を持つ技術者になりたいと考えている。

【PROFILE】
2021年東北学院大学工学部機械知能工科卒業。卒業論文タイトル「頭部回旋装置による歩行誘導」。

情報セキュリティの安全性を向上させたい。

博士前期課程2年 符号理論研究室
伊藤 久晃さん

[RESEARCH THEME]
ハッシュ関数の安全性に関する研究

ハッシュ関数とは、任意の値を入力すると、固定長の全く異なる値を出力する関数のことである。出力値から入力値を求め難いという特性から、インターネット上の通信やビットコインにおける署名、改ざんの検知などに活用されている。
「私の研究は、ハッシュ関数の脆弱性解析や、より高速にハッシュ値の衝突を実現させる実験などで、ハッシュ関数の安全性評価を行っています」。
過去にブラウザなどで使用されていたハッシュ関数「MD5」を対象に、どのように破られたのか文献調査を行い、実際にコーディングして検証する。
「気をつけているのは、先行研究の内容を正確に読み解くことです。自分の解釈で読んでしまうと、間違った出力を促すことになりますから」。
情報セキュリティ分野に興味を持ったのは、中学生の時に利用していた通信教育企業が、個人情報流出事件を起こしたのがきっかけだったという。
「個人情報を流出されて怒りを感じましたが、それ以上に、どうしたら情報を守れるのかと考えました。現在の研究で、少しでも情報セキュリティ向上に貢献できれば幸いです」。
また、大学院での研究生活を通して、情報セキュリティ分野以外にも興味の対象が広がってきた。
「大学院は、自分を見つめ直す時間としても貴重でした。将来は、ITインフラであるサーバやネットワークの設計構築に携わりたいと考え、インフラエンジニアを目指しています」。

【PROFILE】
2017年千厩高等学校卒業。2021年東北学院大学工学部情報基盤工学科卒業。卒業論文タイトル「ハッシュ関数の衝突に関する研究」。

VR空間での文字入力を素手で操作可能に。

博士前期課程2年 空間情報学研究室
大石 真佐貴さん

[RESEARCH THEME]
VRにおけるハンドトラッキングを用いた日本語入力手法に関する研究

ハンドトラッキングとは、コントローラを使わず、VR空間にあるものを素手で操作可能にする技術だ。この機能を標準搭載したVRヘッドセットも市販され、急速的に進化している。
「現在、VR空間での文字入力は、仮想キーボードを両手のコントローラで操作する手法が一般的です。ハンドトラッキングでの入力、特に日本語入力手法はまだ確立していないので、研究にチャレンジしようと思いました」。
現段階では、従来手法に比べて入力速度や精度はまだ劣る。被験者に操作感のアンケート調査を行いつつ、センサの認識範囲や仮想キーボードの位置・配列などを検討している。
「何も持たず操作ができるVR空間で、文字入力の時だけコントローラを使うのは非合理的なので、ぜひ新手法を実用化したいです。また、非接触で操作できれば、VR体験をする施設によってはコロナ対策にもなります」。
ガラケーと呼ばれた携帯電話がスマートフォンに移行することで、物理キー操作からスクリーン上のフリック入力へと、文字入力手法も変化した。
今後、誰もが眼鏡型デバイスを着用してVRやARなどを利用する時代が来れば、ハンドトラッキングでの文字入力が当たり前になっていくかもしれない。
「未来はどうなるか分からず、予想外の新技術が私たちの生活を変えるかもしれません。常にアンテナを張り、新たなテーマにもトライして、社会に貢献できればいいなと思います」。

【PROFILE】
2017年東北学院榴ケ岡高等学校卒業。2021年東北学院大学工学部情報基盤工学科卒業。卒業論文タイトル「VRにおけるハンドトラッキングを用いた文字入力手法に関する研究」。

コンクリート内部鋼材の腐食診断を効率化。

博士前期課程2年 コンクリート劣化診断研究室
髙橋 祐樹さん

[RESEARCH THEME]
樋門コンクリート構造物の鋼材腐食における劣化診断に関する研究

高度経済成長期に造られた初期欠陥の多い構造物が早期に劣化し、維持管理に莫大な費用がかかっている。
「それを踏まえ、今後のコンクリート構造物は、適切な設計・施工によって耐久性を高めるだけでなく、定期診断や必要に応じた補修・補強など、ライフサイクルコストを意識した長寿命化対策が急務となっています」。
特に鋼材腐食は、耐力低下などの危険があるため診断の重要性が高い。しかし、かぶりコンクリートをはつる従来の調査方法では、多くの人員や時間が必要で、高コストになってしまう。
「そこで、コンクリートのひび割れ状況から、内部鋼材の腐食グレードと腐食率を推測する診断方法を研究しています。簡便な診断方法の確立により、ライフサイクルマネジメントに貢献できると考えています」。
現在は、コンクリートのひび割れ開口幅と鋼材腐食率との関係を求める基礎実験と併せて、樋門・樋管構造物を対象に、鋼材の腐食状況が耐力に与える影響について研究を進めている。
「この研究室は、コンクリートの打設など皆で協力し合う作業が多いのが特徴です。得られたデータもチームで議論し、多角的な視点で解析します。良い成果は、良い人間関係を築くことで得られるのだと学びました」。
将来の目標は、コンクリート構造物の維持管理に精通した技術者。恩師・武田教授の言葉を借りて「コンクリートの医者」を目指している。

【PROFILE】
2017年東北学院榴ケ岡高等学校卒業。2021年東北学院大学工学部環境建設工学科卒業。卒業論文タイトル「各種非破壊検査によるコンクリート表層品質評価に関する基礎研究」。