東北学院大学

学長の部屋

2021年度卒業式告辞

東北学院大学を卒業される2,621名の皆さん、大学院を修了される59名の皆さん、ご卒業おめでとうございます。この日を心待ちにされてきた保護者の皆様のお喜びはいかばかりかと存じ上げます。学長として、心よりお祝い申し上げます。

また今年度の卒業式は、オミクロン株の出現による第6波の到来と、今般の地震による会場変更のために、卒業式を2回に分け、代表者のみの出席とすると同時に、保護者の出席をご遠慮いただいておりますことをお断り申し上げます。

今日この日をもって皆さんは、それぞれの専門の学問を修め、ある者は学士として、ある者は修士として、母校である東北学院大学を卒業します。しかし、この2年間は決して平坦な道のりではなく、新型コロナウイルス感染症拡大防止のために、遠隔授業に切り替わり、思うようなキャンパスライフや就職活動を送ることが出来なかったのではないでしょうか。そのような逆境の2年間でしたが、自己管理や危機管理に努め、卒業に必要な単位を修得し、卒業論文や修士論文が認められて大学、あるいは大学院での学びを終了するのですから、時節柄、大きな声を上げて喜びを称え合うことはできませんが、内なる喜びは、ひとしおだと思います。

さて、皆さんが生きていく未来は決して楽観できるものではありません。ご承知の通り、地球温暖化による気候変動、それと連動するかのように登場した新型コロナウイルス感染症の拡大、今度は、武力による国際秩序の破壊活動としてのロシアによるウクライナへの軍事侵攻、そして核兵器使用への誘惑。いったいこれらの「危機」を、日本が経済繁栄の絶頂期にあった30数年前に、誰が予測できたでしょうか。

このような予測不可能な時代を適切に表現した言葉として、「VUCAの時代」という言葉があります。VUCAとは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字に由来する言葉であり、10年ほど前から使われ始めました。確かに現代は、このように変わりやすく、不確実で、曖昧な時代だといえるかもしれません。

なぜ予測不可能な時代が始まったかというと、気候変動、グローバリゼーションもさることながら、グローバリゼーションと密接に関連している通信技術の飛躍的向上が挙げられます。インターネットにより世界がつながり、光ファイバーケーブルの価格崩壊により、民族や国境を越えたフラットな世界が実現したのです。それまでは、日本などのG7の先進国と中国やロシアのようなBRICsの諸国の間には経済格差があり、越えられない壁があったのですが、フラットな世界が実現し、通信技術を応用すれば、技術移転や市場拡大がより迅速に進むことになりました。そして今は、大量データを瞬時に運ぶ5Gやすべてのモノに知性を宿らせるIoT、AIなどの技術革新によって、生産、消費の大量化、加速化が急激な勢いで進展しています。有名なアメリカ人ジャーナリストであるトーマス・フリードマンは、世界はフラットなだけでなく、ファスト(迅速)かつスマート(高性能)になっており、人間には、従来の読み書き算数に加えて、4つのC=創造性Creativity、共同作業Cooperation、共同体Community、コーディングCoding(=プログラミング)のスキルが必須になり、そのためには、「生涯学修者」になってスキルを高めていかなければならないと述べています。

学びを終える卒業式に、よもや、学長から学びの継続を勧められるとは思わなかったのではないでしょうか。しかしながら、未来は明らかに予測不可能であり、情報技術の発展により「フラットで、ファストでスマートな時代」が進行していることだけは確かです。生涯教育は学校教育と異なり、その学修スタイルは各人各様でしょう。これから企業でスキルをしっかり訓練される人。転職のためのリスキリングやリカレント。社会人大学院における資格取得によるキャリアアップ。そして起業など。それぞれまちまちだと思いますが、プログラミングの学びは程度の差こそあれ、必須のスキルなのです。

皆さんは、この東北学院大学において、これからの学びに対応できる学問的基礎や専門知識を身につけてきました。それと何よりも、建学の精神であるキリスト教による人格教育を通じて、LIFE LIGHT LOVEというスクール・モットーによって言語化された教えを受けています。このスクール・モットーは、フリードマンの言う4つCのうち、2つのC、すなわち、Cooperation共同作業やCommunity共同体にとって極めて重要なものです。人間という字は漢字で人の間と書きますが、LIFE(いのち)とは、他者の命や人格を自分と同じように大切にすること。LIGHT(ひかり)とは、学業や部活動で得た力を他者を照らすために用いること。LOVE(あい)とは、自分が愛するばかりではなく他者からも愛される人間になることです。

最後に、アメリカの大学では、卒業式をCommencementと呼びます。Commencementには、「終わり」ではなく「始まり」という意味があります。これからの予測不可能な時代、学びを継続することで、幸せな人生と、新しい未来に歩み始めていってほしいと願っています。ご卒業おめでとうございます。

2022年3月24日

東北学院大学 学長 大西 晴樹