2024年度卒業式式辞
東北学院大学を卒業される2,516名の皆さん、大学院修士課程を修了される50名の皆さん、そして博士号を取得される6名の皆さん、ご卒業おめでとうございます。この日を心待ちにされてきた保護者の皆様のお喜びはいかばかりかと存じます。東北学院大学を代表して心よりお祝い申し上げます。
さて、学部生の皆さんが入学された4年前は、コロナ禍の2年目ということで、入学式は学部学科の代表者のみによって土樋キャンパスラーハウザー記念東北学院礼拝堂で挙行されました。あれから4年。コロナ禍から始まった皆さんの大学生生活も、今日で終わろうとしています。東北学院大学を卒業するにあたって、心に刻んでもらいたいことを伝えておきたいと思います。
それは、われわれの生活基盤である故郷東北の著しい人口減少と少子高齢化です。かつてイギリスの人口論者マルサスは、「食糧は等差級数的にしか増えないが、人口は等比級数的に増え続ける」という有名な命題を発表しました。要するに、人口の増大に食糧供給が追い付かず、人口の増大は貧困を生み出すというのです。産業革命前のモデルとしてこの命題は説得力をもちましたが、ところがどうでしょう。産業革命後の日本において、とくに、ここ東北において人口の減少が貧困をもたらそうとしています。
ここにいる卒業生の半数近くの皆さんが、故郷を離れ、首都圏を中心とする東北6県以外の地域に就職すると思います。皆さんのような生産年齢層が流失すると、東北の人口構成は、皆さんが42歳の働き盛りを迎える、今から20年後の2045年には、65歳以上の老年人口が15歳から64歳までの生産人口を上回ることになる、すなわち、老人の方が働き手の人数を上回ると予想されます。そうすると、労働力の不足や消費の減少、事業継承をはじめ、地域経済社会の「稼ぐ力」は衰退し、人口減少にますます拍車がかかるでしょう。コロナ禍の期間は、テレワークも手伝い東京への一極集中は抑えられました。しかし、コロナ禍の収束に伴い、東京への一極集中に弾みがつき、これまで東北各地から人を集め、いわば「人口ダム機能」を果たしていた百万都市仙台がついに決壊して、この2年間仙台においても人口減少が始まっています。
残念ながら、この流れを喰い止めるには無理があります。大企業の初任給はうなぎ上りです。首都圏のように分業が発達し、競争が盛んなところに就職すると仕事のスキルは向上するでしょう。やりたい仕事、やりがいのある仕事が見つかるのも首都圏だといわれてしまえばそれまでです。実際、若者のみならず、男性よりも女性の首都圏への流失率が高いのも、やりたい仕事、やりがいのある仕事が容易に見つかるからです。出産可能人口といわれていますが、15歳から49歳までの女性の人口が、2015年から2045年までの30年間に半減する県が全国に5県あります。いずれも東北各県です。6県目は宮城で、東北6県ですべて上位を独占しています。東北において高齢化のみならず少子化が全国に先駆けて進展するのではないでしょうか。
このような少子高齢化が進展すると、生活の風景がどのように変わるのでしょうか。すでに起こり始めていることですが、住宅や商店街の中に空き地が広がります。買い物が不便になります。閉店と高齢化により、歩いて買い物に行ける店舗が閉店し、頼りの宅配も人手不足で機能しなくなります。働き手がいなくなり、後継者不足で商店や工場などの中小企業が消えていきます。無子高齢化といいますが、子どもたちがいなくなり、小中高が統合・閉校し、大学は淘汰されます。高齢化に伴い、介護人材も不足し、やがて市町村は合併せざるを得なくなります。学校や役所以外にも、病院、銀行、百貨店、そして県庁所在地においても映画館、スターバックスという皆さんが親しんできた生活インフラが消えてなくなるのです。
これから東北学院大学を卒業して社会人になる皆さん。これから東北の未来を支えるのは、子どものときに東日本大震災を経験し、東北を一番よく知っている皆さんなのです。東北学院は、今から139年前に仙台神学校として産声をあげましたが、その5年後には、高等教育を施す「東北学院」(North Japan College)へとその校名を変更しました。「河北新報社」の社名の由来ですが、「白河以北一山百文」といわれていた時代、すなわち、九州の西南地方では、土人形が飛ぶように売れるが、福島の白河の関より北では、土人形を一山百文で叩き売りしなければ、売れない、それほど東北には購買力がないといわれていた時代に、創立者の一人、押川方義先生は「東北をして、日本のスコットランドに」と東北学院の目的を述べたのです。
押川先生の考えの中には、ブリテン島の北部に位置し、南部・中部のイングランドに比べると、宗教改革によってプロテスタント・キリスト教の牙城であり、産業革命によって機関車製造、造船においてイングランドを凌駕し、文化的にも、経済的にも豊かな19世紀後半のスコットランドが理想にあったのだろうと思います。事実、押川先生が助手として働いたスコットランド人医療宣教師セオボールド・パームは、リスター防腐法という化膿を防ぐ先端手術によって多くの日本人を救い、「パンの医者」「パームは死者を生かす」といわれました。
皆さんはその「東北をして、日本のスコットランドに」という理想を継承する東北学院大学の卒業生です。これからの長い人生、さまざまな事情で一生東北を離れざるを得ない卒業生もいると思います。本学で学んだ科学や技術、そして故郷東北の温かくて、美しい心象風景が皆さんを支えることになるでしょう。東北学院大学はキリスト教による人格教育を建学の精神とする大学であり、LIFE LIGHT LOVEをスクールモットーとする大学です。LIFEとは命の大切さであり、個人の尊厳であります。LIGHTとは、大学で学んだ知識や技術で世界を明るく照らすことです。そしてLOVEとは、互いに愛し合い、仕え合うような関係を作ることです。どうか、皆さんのこれからの長い人生が神に祝福され、東北の未来に貢献するものであることをお祈りし、お祝いの言葉とします。ご卒業おめでとうございます。
2025年3月19日
東北学院大学 学長 大西 晴樹