東北学院大学

学長の部屋

2025年度卒業式式辞

東北学院大学を卒業される2,530名の皆さん、大学院修士課程を修了される59名の皆さん、そして博士号を取得される3名の皆さん、ご卒業おめでとうございます。この日を心待ちにされてきた保護者の皆様のお喜びはいかばかりかと存じます。東北学院大学を代表して心よりお祝い申し上げます。

さて、学部生の皆さんが入学した4年前は、コロナ禍の3年目ということで、入学式を泉キャンパス礼拝堂で3回、多賀城キャンパス礼拝堂で1回に分けて挙行しました。入学式ののちに応援団、チアリーダーたちが「さあ、ここからだ」と声を掛け合って互いに鼓舞しあったのを覚えています。あれから4年が経ちました。懐かしの泉キャンパス、多賀城キャンパスということでいえば、皆さんは、両キャンパスを経験した最後の学年ということになります。東北学院大学を卒業するにあたって、心に刻んでもらいたいことを伝えておきたいと思います。

今、デジタル技術の発展により世界や日本は大きく変わろうとしています。とりわけ、皆さんも経験されていると思いますが、人工知能AIは、対話型生成AIであるChatGPTやGemini等の普及により、誰もが使えるものとなりました。皆さんは、BYOD(bring your own device)が当たり前のこととして通学したと思いますが、OS、インターネット、クラウド、データ解析というレイヤーを利用して、必要な情報や解答を自分の端末から取り出すことのできる技術を身につけたのではないでしょうか。

デジタル技術をめぐって世界は「暴走列車」のような競争をしており、現在はアメリカの設計に特化したNVIDIAと台湾の製造に特化したTSMCという全く異なるビジネスモデルをもつ2社が世界の覇権を握っています。製造工場をもない「ファブレス」であるNVIDIAは、高速半導体GPUというチップだけを設計しているのではなく、最先端のAIを開発するために必要なプラットフォームを握っています。他方、TSMCは、自社ブランドの製品を持たず、製造に徹する「ファンドリ」(工場)として、顧客であるAppleやNVIDIAなどから信頼を勝ち取って業界全体の「共通工場」の役割を果たしています。

私は長年経済史を講じてきましたが、私が大学で教え始めた40年前には、皆さんには信じられないかもしれませんが、トランジスタを得意としていた日本は、世界の半導体生産の半分を超え、世界のTop 10のうちにNEC、東芝、日立はTop 3であり、日本企業6社が名を連ねていました。当時の半導体はメモリーのレベルでしたが、デジタル大国だったのです。ところが、日米貿易協定により生産量が減少、錚々たる企業が半導体製造から撤退し、バブルが弾けて「失われた30年」が続き、日本経済は衰退しました。その間、パソコンの頭脳ともいうべきCPUはインテルなどアメリカ企業が優位となり、いまや日本の半導体生産は世界の10分の1にすぎません。

では、なぜ日本は世界の半導体競争から置いていかれたのでしょうか。もちろん、貿易交渉でアメリカに譲歩したこともありますが、日本企業は、縦割り、自前主義にこだわり、自社ブランドによる垂直的統合を果たそうとして、競争力をなくしたのです。原料仕入れから販売まで自前で遂行しようとして、高コストの製品を作ることになってしまったのです。得意としていた技術開発競争において、年功序列、内向きの集団志向という日本人の特性が裏目に出てしまったともいえましょう。

日本の電機メーカーの衰退とは裏腹に、台頭してきた台湾の企業を皆さんはご存じだと思います。高性能のパソコンを日本製品より安く提供するAcerです。日本のPanasonicやSONYのように、町工場から身を興したスタートアップ企業ですが、いまや台湾を代表する世界的企業に成長しました。創業者のスタン・シー(施振榮)は、台湾の国立交通大学で電子工学を学び、修士課程を修了後、伴侶や仲間とともにAcerを起業しました。自社ブランドの製品を製造すると同時に、IBM、Apple、Dell、ヒューレット・パッカードの製品を、OEMといいますが、受託生産しました。日本企業と異なり、製造の垂直統合にこだわらないスタン・シーは、いまから30年以上も前に『ハーバード・ビジネス・レビュー』に、今後「コンピュータを作らないコンピュータ会社」や「ファブレス(工場を持たない)半導体会社」が主流になるとの記事を掲載し、今日のNVIDIAとTSMCの関係を予言したのです。

では、なぜ同じ儒教文化の国で、垂直統合ではなく、垂直分業をスタン・シーは実行したのでしょうか。王道を説く彼の著作の中に、創業者としての心意気を示すMe too is not my styleという言葉があります。あえて翻訳すれば、「追従は私の流儀ではない」と訳せましょうか。AIによって、すべての情報や解答が同じになる時代です。皆さんが将来、新しい価値を創造し、分野・業界を超えた連携を生み出し、未来を創造するためには、このMe too is not my styleという言葉は大きな示唆を与えてくれるはずです。

もちろん、キリスト教人格教育を建学の精神とする東北学院大学で学んだ皆さんにとって、この言葉は、独りよがりの独善性を意味するものではありません。LIFE LIGHT LOVEで味付けされた言葉となるはずです。すなわち、LIFEとは命の大切さであり、個人の尊厳であります。LIGHTとは、大学で学んだ知識や技術で世界を明るく照らすことです。そしてLOVEとは、互いに愛し合い、仕え合うような関係を作ることです。どうか、東北学院大学の卒業生として、AIの時代、自分の個性や輝きを見失うことなく、LIFE LIGHT LOVEの精神のもとに堂々とMe too is not my styleを貫いていってください。皆さんのこれからの長い人生が神様に祝福され、人類の未来に貢献するものであることをお祈りし、お祝いの言葉とします。ご卒業おめでとうございます。

2026年3月23日

東北学院大学 学長 大西 晴樹