【プレスリリース】活断層で究極の潤滑物質「酸化グラフェン」を世界で初めて発見 ~跡津川断層系のゆっくりすべる謎を解明~
2026年05月13日
【プレスリリース(本文)】
【本学研究者情報】
教養教育センター(高等教育開発室)教授 中村教博
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
・世界初:活断層中から、単層ナノシート※1の「酸化グラフェン※2」を世界で初めて発見しました。
・超低摩擦:酸化グラフェン(摩擦係数※301以下)は、従来の粘土鉱物※4やグラファイト※5(摩擦係数0.1程度)よりも滑りやすい驚異的な特性が報告されています。
・地震の謎に迫る:酸化グラフェンが安定して存在できる温度(200℃以下)が、特定の深さで地震が起きにくい「断層クリープ※6」の領域と一致することを確認しました。
・新プロセス:断層運動が有機物由来のアモルファスカーボン※7を酸化グラフェンへと変える「トライボケミカル反応※8」を引き起こした可能性を示しました。
【概要】
岐阜県から富山県にまたがる「跡津川断層系」の中央部では、地下約7~8 kmまで地震が少なく、断層がゆっくり滑る「断層クリープ」が報告されています。この原因はこれまで、潤滑剤の役割を果たすグラファイトや流体によるものと考えられてきました。しかし、近年のラマン分光法※9やXPS※10、TEM※11の分析技術の発達により、様々な種類の炭素が分類できるようになってきました。特にグラフェンは酸化還元状態によって力学的・電気的特性が大きく変化しますが、地学でその特異な物性は注目されていませんでした。
東北大学の長濱裕幸 教授、武藤潤 教授、澤燦道 助教、島田知弥 大学院生、東北学院大学の中村教博 教授、東京大学の大藤弘明 教授らの研究グループは、活断層中に単層ナノシートの酸化グラフェンを発見しました。酸化グラフェンはグラファイトよりも一桁小さい「摩擦係数0.01以下の超低摩擦」であるため、跡津川断層系の特異な地震活動に影響する可能性があります。この物質が安定して存在できる温度は、地震の少ない領域と一致することが判明しました。また、摩擦メカニズム・形成プロセスにも焦点を当てました。
本成果は5月12日18時、国際学術雑誌『Nature Communications』に掲載されました。
本研究をまとめたポンチ絵(NotebookLMで画像出力し、修正)
【用語解説】
※1 単層ナノシート・・・厚さがナノメートル(nm)レベルかつ横方向の長さが厚さの数倍から数千倍の大きさを持つ2次元物質である。
※2 酸化グラフェン・・・炭素原子が六角形層状の結晶構造を持つ物質であるグラフェンに、ヒドロキシ基※13などの酸素含有官能基が結合した物質である。
※3 摩擦係数・・・物体の滑りにくさを表す数値で、滑る面に垂直にかかる力と水平に滑る力の比(μ=0〜1の範囲)で表される。一般的な岩石ではその比がμ=0.6程度で、氷結路面で0.2〜0.1程度となる。
※4 粘土鉱物・・・いわゆる粘土を構成する鉱物で、層状珪酸塩鉱物である。ヌルヌルと滑りやすい特徴を持つ。
※5 グラファイト・・・炭素原子が六角形層状の結晶構造を持つ物質で、黒鉛と呼ばれる。鉛筆の芯のように層と層の間で剥がれてツルツルと滑りやすい特徴を持つ。
※6 断層クリープ・・・活断層が地震を伴わずに長時間かけてゆっくりとズレ動く現象である。断層面に含まれる粘土鉱物や水が潤滑剤の役割を果たし、摩擦が小さくなることで発生するとされる。跡津川断層以外にも、米国カリフォルニア州のサンアンドレアス断層の一部の地域等がその一例である。
※7 アモルファスカーボン・・・炭素原子が結晶構造を持たず、不規則に結合している物質
※8 トライボケミカル反応・・・物質が摩擦や摩耗する際に、その接触部付近で生じる特有の化学反応である。
※9 ラマン分光法・・・レーザー光線を物質に照射してそこから散乱した「ラマン散乱光」の波長変化を分析する非破壊・非接触の構造解析手法
※10 X線光電子分光法(XPS)・・・試料表面にX線を照射し、放出される光電子のエネルギーを測定して、物質表面の元素組成や化学結合状態を分析する手法
※11 透過型電子顕微鏡(TEM)・・・高速の電子線を極薄の物質に照射して透過した電子線を利用して、原子レベルの構造を観察できる高分解能な顕微鏡である。
※12 断層ガウジ・・・断層運動による摩擦で岩石が細かく粉砕され、断層の滑り面に沿って帯状に粘土化した物質である。
※13 ヒドロキシ基・・・ヒドロキシ基とは有機化学の構造式"-OH"と表される官能基である。
※14 固着―非固着の遷移領域・・・断層面において、普段は固着して地震時にすべる「固着域(アスペリティー)」と普段からゆっくりとすべり続ける「非固着域(クリープ域)」がある。両者の中間的な領域で、スロー地震が発生する場所であるとされている。
※15 スロー地震・・・一般的な地震は断層面が急激にすべることで、岩盤に蓄積されたひずみエネルギーが一挙に解放されて地震の揺れとして観測できる現象である。一方、スロー地震は断層面がゆっくりすべるために、蓄積されたひずみエネルギーが徐々に解放されるため、断層自体は相当量のすべりがあるものの、地震の揺れとして観測されない現象である。
【論文情報】
論文名:Ultra-low friction graphene oxide in the Atotsugawa Fault System
著者名:Tomoya Shimada (島田知弥)1*, Hiroyuki Nagahama (長濱裕幸)1, Jun Muto (武藤潤)1, Norihiro Nakamura (中村教博)2, Sando Sawa (澤燦道)1, Hiroaki Ohfuji (大藤弘明)3
- 東北大学大学院理学研究科地学専攻 断層・地殻力学グループ
- 東北学院大学 高等教育開発室・教養教育センター
- 東京大学 大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻
雑誌名:Nature Communications
DOI:10.1038/s41467-026-72239-5
公表日: https://www.nature.com/articles/s41467-026-72239-5
【問い合わせ先】
(研究に関すること)
東北学院大学大学高等教育開発室 教授 中村 教博(なかむら のりひろ)
Email:norihiro.nakamura.d8@g.tohoku-gakuin.ac.jp
(報道に関すること)
学校法人東北学院 法人事務局広報部広報課
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