東北学院大学

学長の部屋

2019年度入学式告辞

本日ここに、2019年度入学式を挙行するにあたり、2810 名の新入生の皆様に心よりお祝いを申し上げます。また保護者・ご家族の皆様のお喜びはいかばかりかとお察し申しあげます。ご臨席のご来賓の皆様にも、厚く御礼申し上げます。

入学される皆さんは、それぞれに高校での学びを終え、選ばれて入学の権利を勝ち取られ、東北学院大学の学生として、今ここにおられます。皆さんをお迎えする大学としてはこのうえない喜びであります。私たちは皆さんを一人一人かけがえのない人格として尊重し、受け入れます。これから卒業までの4年間、全力で支えていくことをお約束します。

東北学院大学は、6つの学部と、6つの大学院研究科を有する東北以北最大の私立大学であります。ここ仙台の地で、1886(明治19)年、日本で最初のプロテスタント教会の一員となった押川方義、その押川を支えて本院設立に尽力したアメリカ人宣教師ウィリアム・ホーイによって、仙台神学校として設立されました。今年、設立133年目を迎えます。仙台神学校は5年ほどで、東北学院と名前を変え、ホーイの後継者であるD.B.シュネーダーの下で発展し、1949年に大学となり、今日に至っています。大学としても、今年は丁度70周年を迎えます。創立以来、東北学院は総計18万人を超える卒業生を送り出してきました。仙台で、東北で、それのみならず、世界各地で、あらゆる職場で、また家庭で良き働きをしています。

まず学院の教育理念の基盤、これを建学の精神といいますが、それは、「聖書の示す神に対する畏敬の念とイエス・キリストにならう隣人への愛の精神を培い、文化の発展と福祉に貢献する人材の育成を目指す」、と定められています。私たちは、この建学の精神をかみ砕いて、スクールモットー「地の塩・世の光」という聖書に出てくる言葉をもちいて理解しようとしています。「塩」は味付けに欠かすことのできない基本的な調味料ですが、この世にあって、それぞれの食材の持ち味を引き出す役割を果たしています。「光」とは、暗闇を照らし、見えないものを映し出す役割を果たします。そのように、社会に無くてはならない役割を果たすことのできるかけがいのない人物を育てあげること、これが東北学院の建学の精神です。

この精神によって、大学の3つのキャンパスでは、毎朝10時台に、短くではありますが礼拝が必ず行われています。心を落ち着かせ、静謐な環境の礼拝堂で、ステンドグラスからの光を仰ぎ見、聖書を読み、それに基づくメッセージを聴き、学院の根幹の精神を知ってほしいと思います。

皆さんは、マイクロソフトという会社をご存知でしょうか。マイクロソフト社共同創業者のビル・ゲイツは、これまでの大型コンピュータではなく、今日、人間が働くうえで欠かすことのできない必須のアイテムであるパーソナル・コンピュータのソフトウェア、ウィンドウズの開発に多大なる貢献をした人物です。子どものときはプロテスタントの教会学校に通い、聖歌隊で歌っていたゲイツ少年ですが、コンピュータのソフトの開発に夢中になり、実業家へと転身していきました。彼はのちに「学校教育であなたの成功に役立ったものは?」と聞かれて、「3つある」と答えています。まず、専門の数学を熱心に勉強したことが、論理的思考力や決断力を育んでくれた。次に、幼少期から本をたくさん読んだことが説得力や想像力を育んだ。第3にコンピュータに興味を持ち始めた時から、優れていると評判のプログラムを徹底的に勉強したことが新しいソフトの開発や事業の成功につながったと答えています。

ゲイツは仕事が忙しくなり、ハーヴァード大学を中退しましたが、これら3つの答えは、皆さんの東北学院大学での学びにも多くの示唆を与えるものを含んでいます。その第一は、それぞれの学部の専門の学びを大切にしてほしいということです。6つの学部と6つの大学院研究科を擁する本学には、それぞれの専門分野において秀でた教員が多数おり、授業であれ、ゼミナールであれ、ゲイツの言葉を用いれば、「論理的思考力や決断力」を育んでくれるはずです。

次に教養教育です。ゲイツは、専門を熱心に勉強しただけではありません。「本をたくさん読んだことが説得力や想像力を育んだ」と答えています。教養教育の意義は、専門分野の基盤となり、背景となる学問を知ると同時に、専門分野と異なる学問を学ぶことによって、専門の学問の限界性にも気づくことにあります。そうすることで、「説得力や想像力」が生まれるのです。東北学院大学には、「TGベーシック」と呼ぶ、学生の人間性の陶冶と社会的能力の育成に配慮した、キリスト教学や日本語、コミュニケーション能力、などの内容の科目があります。

これらの専門と教養の学びが、ゲイツのパーソナル・コンピュータソフトの開発の成功につながり、今日のように、大きく時代や世界を変えることになったのです。東北学院大学は2036年の創立150周年にむけて作成されたTGGV150(東北学院グランドヴィジョン)「ゆたかに学び、地域へ世界へ」のモットーのもとに現在、3つの、大きな変革をなそうとしています。

その第一は、授業方法の工夫です。アクティブ・ラーニングという方式を授業で取入れるようになりました。その授業では、教授が教えたものを暗記するという詰め込み型の知識ではなく、教授の授業に触発された学生が主体的に授業に関わり、調査して考え、それを発表し、討議し、評価しあうような能動的な学習が求められています。そのために、東北学院大学は、ホーイ記念館に最新のITメディアを備えたラーニングコモンズという学びの施設を準備しています。

その第二は、情報化の時代だからこそ、ヴァーチャル・リアリティ(仮想現実)の世界に閉じこもり、現実の社会や地域のつながりを見失いがちです。東北学院大学は、人格形成にとって重要な体育会、文化団体、サークル等の課外活動を推奨すると同時に、ボランティア活動を進めていきます。8年前の東日本大震災の後は、本学のボランティアステーションが全国の大学ボランティア活動のキーステーションとなって活躍しています。どうぞボランティアに参加して、視野を広め、自分は何をしたら地域や社会のために役立つのかを判断する力を身に着けてください。

第三は、東北以北の地域のニーズをくみ取り、教養教育と本学の6つの学部の専門教育とが密接に連携し、学生の課外活動、ボランティア活動にも便利な、地域に開かれた都心型ワンキャンパス、すなわち、現在の土樋キャンパスと未来の五橋キャンパスを架橋する「アーバン・キャンパス」の実現です。今年度は、早速市立病院跡地の整備に着手することになります。

東北学院大学の新入生の皆さん。皆さんが同じ勉強をしてきた3年間の高校生の学びはすでに終わりました。今日から、新しく自分の専門に即した4年間の学びがスタートします。皆さんは、日本の、いや世界の大学一年生と同じスタートラインに立ったわけであります。大学の4年間は高校の3年間より長いのです。この4年間で何を学び、自分の未来、地域の未来、世界の未来にどう結び付け、将来を切り拓いていけるかです。もちろん大学はそのためのサポートを惜しみません。それは、皆さんの学習意欲次第で決まるといっても言い過ぎではありません。最後に聖書の言葉を皆さんに贈ります。「求めなさい。そうすれば与えられる。…門をたたきなさい。そうすれば開かれる」(マタイによる福音書7章7節)。

2019年4月3日  東北学院大学 学長 大西 晴樹