東北学院大学

学長の部屋

2023年度卒業式告辞

東北学院大学を卒業される2,501名の皆さん、大学院修士課程を修了される58名の皆さん、ご卒業おめでとうございます。この日を心待ちにされてきた保護者の皆様のお喜びはいかばかりかと存じます。学長として、心よりお祝い申し上げます。

また今年度の卒業式は、新しい東北学院大学を象徴し、4月から供用を開始した五橋新キャンパス押川記念ホールにおいて3回に分けて行います。思い出してもらいたいのですが、皆さんは大学入学と同時に、拡大しはじめた新型コロナウイルス感染症のために、代表者による入学式となり、その後授業も課外活動もオンラインということで、対面で教員や友人と交わることが出来ずに孤独な大学生生活のスタートを切った学年です。その後、感染状況に応じて授業が対面になったり、オンラインに戻ったり苦労を重ねてきたと思います。しかし、皆さんは自己管理や危機管理に努め、卒業に必要な単位を取得し、卒業試験や卒業論文、修士論文が認められて、学士、修士として母校である東北学院大学を卒業するのですから、まことに喜ばしい限りです。東北学院大学は、コロナ禍にあっても、課外活動を中止するのではなく、SNSやYouTubeを通じて参加を呼びかけ、制限を設けながらも大学祭や課外活動を実施してきました。その意味では、コロナ禍とはいえ、掛け替えのない友人に出会えた人も多かったのではないかと思います。

さて、皆さんの4年間には、コロナ禍という疫病だけではなく、ロシアによるウクライナ侵攻、パレスチナにおける戦争、気象変動や自然災害ということでは、昨年夏の気温の上昇や1月の能登半島地震が起こりました。まさに、危機が続発した4年間でした。しかし、この危機の間に、世界は大きく変わろうとしているのです。パンデミックの中にあってNintendo Switchの人気が急上昇し、世界中の人々がNintendo Switchを購入して遊び、スーパーマリオは映画などになって戻ってきました。日本のカルチャーが世界で人気を博しているのは嬉しいことですが、この日本発のカルチャーはなにも新しい変化を示すものではありません。いわば20世紀のカルチャーであり、1990年代のリバイバルにすぎません。そのような中、世界を変えようとしているのは、アメリカ合衆国や中国が競合し、ChatGPTに代表される生成AI(人工知能)技術の「暴走列車」のような進化です。2015年末にサム・アルトマン、イーロン・マスク等によりOpenAI社が創立され、2018年にChatGPTのベースになるLLM(Large Language Models・大規模言語モデル)が登場、それにより、文章の生成ができ、論文を書いてくれるまでになりました。そして2022年11月には、コンピュータ言語で操作しなくとも、日常言語で操作できるLLM、すなわちChatGPTが登場したのです。人々は日常言語をもちいて、AIを操作することができ、それによって便利で効率的な生活を手に入れようとしています。苦労して考えずともAIにまかせて回答を受け取ることができるので、皆さんが社会に出ていくと、ChatGPTに代表される対話型生成AIを駆使してどのように作業効率をあげていくかというタスクが待ち構えているのではないでしょうか。

そこで、注意してもらいたいのですが、いかにAIが日常言語で操作できるようになろうとも、AIはあくまでも「人間が作ったプログラムによる予測と統御」でしかないということです。私が以前大学HPを通じて皆さんに注意を喚起したように、AIは、その回答が、真理であるか偽りであるかという点には頓着しません。ディープラーニングにより膨大なデータを瞬時に処理し、回答を用意しますが、そこには出典を示す注記もなく、ひたすら、予想される平均的な回答が示されるだけです。AIに反映される「ウソ」や「社会の歪み」を問い質すのは、真理の発見を使命とする大学の学問研究の成果であり、学士号や修士号を今日手にする皆さんの責任だといえましよう。

「シンギュラリティ」といって、AIが人間の能力を超えることは、時間の問題です。だからといって、AIを怖れるあまり、AIに人間性を求めたり、AIを神のようにあがめたりしないことです。聖書には、モーセの十戒に「神ならざるものを神としてはいけない」という厳しい戒律があります。いかに日常言語で答えてくれるからといって、AIに人間性を求めるのは土台無理なのではないでしょうか。東北学院大学は、キリスト教による人格教育を「建学の精神」として、LIFE LIGHT LOVEをスクール・モットーとする大学です。LIFE「いのち」とは、痛い、苦しい、悔しいという身体感覚や感情をもちながら、多くの経験を積んできた人間の尊厳を理解し、異なる他者を自分のように大切にすることです。LIGHT「ひかり」とは、学問やスポーツを通じて獲得してきた真理や科学技術、運動能力によって世の中を明るく照らすことです。LOVE「隣人愛」とは、互いに相手の弱点を認め、赦し合い、欠けを補い合いながら慈しみ合うことです。これらの大切な教えを感情や愛情をもたないAIに委ねる訳にはいかないのです。LIFE LIGHT LOVEを大切にすることによって、自分が、そして人間性が担保されます。

さあ、いよいよ旅立ちです。東北学院大学の卒業生であることを誇りとし、AIとの共存を図り、人間性豊かな未来社会の構築を目指して生き抜いていってください。ご健康とご活躍をお祈りしています。

ご卒業おめでとうございます。

2024年3月26日

東北学院大学 学長 大西 晴樹