東北学院大学

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第1報告 質問・回答

2021年02月04日

岩手県立大学 総合政策学部 教授 桒田 但馬 氏
「新型コロナウイルス感染症と東北の地域経済の現況」について

 

【質問1】コロナによる労働形態変化のため、岩手にリモートによる労働を取り入れる必要があるとしたら、それに伴うメリットやデメリット、更に行わなかった場合の感染者は増加するのか?どのようにお考えですか?

 岩手の場合でよいのですね。岩手県の産業別就業者数をみると、トップ5は卸売・小売業、製造業、保健衛生・社会事業、建設業、農林水産業です。つまり、これらの多くは、エッセンシャルワーカーや対面・接触を基本とする労働者で、どちらかと言えば、リモートワークに適さない産業の従事者です。また、県内の企業の大半は小規模・零細であり、通勤も多くが自家用車で、それほど長くない通勤時間となっています。リモートにすると、むしろ、デメリットの方が多くなるかもしれません。たとえば、通信環境やセキュリティ対策、意思疎通の難しさです。また、服務管理が上手くできない。しかしながら、リモートはデジタル化を伴いますので、この観点からアプローチすると、いわゆるアナログ型の経営がかなり染みついていますので、生産性(生産効率)は決して高くはありません。また、感染予防の点からいえば、職場のスペースが狭く、休憩室等がない場合も少なくなく、諸対策を講じる余地が限られているため、職場内の感染リスクは低くはないと思われます。
*エッセンシャルワーカー:人々が日常生活を送るために欠かせない仕事を担っている人のことで、治安、食料生産、医療、緊急対応などに携わる労働者をさす。

【質問2】「震災被災地はコロナも重なって影響が大きくなっている」とあるが、そもそもの岩手県の特に沿岸部地域の復興が完了していないというのはどういうことか?

 「復興」をどのようにイメージし、どの程度の進捗を実感しているかは人それぞれですが、いわゆるハード事業はほとんど終了しています。ハード事業だけをみても、大震災から10年経過し、「よくここまで来たな」という人もいれば、「こんなものなのか」という人もいます。復興に従事してきた人(業者ほか)や、再建を目指してきた被災者は別段さぼっていたわけではなく、さまざまな工夫や努力を行ってきたわけですから、未曽有の災害のなかで、どうしようもない側面がある一方で、多くの課題も残っているのではないでしょうか。また、いわゆるソフト事業、たとえば、地域の企業からみれば、人材確保や販路回復などに非常に苦労しています。また、高齢の被災者を主な対象に、見守りや心身のケアなども課題となっています。国や自治体の継続的な支援策が必要なのかもしれません。

【質問3】デジタル化の地域課題について、新型コロナウイルスによって主にどの業種、年齢の人がデジタル化に取り残されると考えていますか?さらにデジタル環境の整備とは、どのような人がどのレベルまで扱えている状態のことを指していますか?

 コロナ禍においてデジタル化が、企業経営にとって損益分岐を大きく左右するとすれば、とくに被災地の企業は経営が厳しく、そのための追加投資ができない状態です。小規模・零細であっても、かなりの企業は大震災からの復興において、公的支援等もあって、設備・機器等を最新型に更新したり、ホームページを持つに至っています。とはいえ、高齢事業者の多くが該当するでしょうか、HPを定期的に更新したり、情報発信したりしているケースは限られています。こうしたなか、コロナ禍で通信販売等をスタートしたり、バージョンアップしたりする卸売・小売業やサービス業(例:観光業)などをみると、若手・中堅スタッフがデジタル化の貴重な戦力になっています。もちろん、通信販売に工夫を施しても、コロナ前の売上げに戻ったというケースはレアですが、何もしない(やれない)企業と比べると、どんどん差がつくように思います。ちなみに、行政のデジタル化も進んでおらず、コロナ対策にかかる公的支援の手続等で大きな問題になったことはご存知かもしれませんね。デジタル環境の整備とは、生活(暮らし)や仕事(産業)にかかるハードとソフトの両方のインフラ整備があげられますし、行政手続や交通、医療・福祉などのサービスであれば、基本的な操作を身につけていただくことになりますが、他方で、種々の使い方をフォローしてくれる人的サポートも必要になるでしょう。

【質問4】全国的に感染者発生が最も遅かった岩手県は経済的影響を受けていないのではないか?と感じていたが、東京商工リサーチ等の調査にもあるように、実際は被災企業がより厳しい状況にあるのだと考えを改め直す事ができた。最も疑問であったのが、影響が大きい割合において岩手県よりも宮城県の方が低い値を示していた事だ。東北地方で人口が最も多い宮城県のサービス業が危機的状態でありながらも、売り上げの落ち込み表がなだらかなのに対して、なぜ岩手県の売り上げの落ち込み度はこのような起伏を生じるのだろうか?また、解雇、雇い止めで職を失う人々の再就職はデジタル化でしか補うことができないのか?他の選択肢もあるのか?

 「最も疑問であったのが~」という点については難しい質問をいただいたと思っていました。宮城の理由は十分に説明することはできませんが、岩手の場合(「影響は大きい」54.8%、売上げ減少「40~59」34.0%)、企業の規模や産業の構造など地域の特性がかなり出ているのではないかと認識しています。例えば、宿泊業であれば、小規模施設で、かつ低価格帯で土木工事の作業員が長期で滞在しており、「影響は大きい」けれども、売り上げは「40~59」の落ち込みでとどまっている(「40~59」でも継続できない水準でしょうが)。水産加工業であれば、県内向けあるいは一般大衆向けの魚介類、海藻類(輸出や首都圏の高級料理店向けというよりも)を取り扱っているので、「影響は大きい」けれども、売り上げは「40~59」の落ち込みでとどまっているといったことが考えられます。解雇、雇い止めで職を失う人々の再就職は、当日のプレゼンでは「デジタル化でしか補うことができない」という内容で言及したわけではありません。むしろ、解雇、雇い止めとなったような方の業務は、将来的にデジタル化により消滅ないし大幅縮減となるのではないでしょうか。したがって、私の趣旨は、そういう方々に対しては、種々の雇用対策(職業訓練等を含む)を要するのではないかというものでした。

【質問5】デジタル化を図ることがかえって二次災害を生むことになることを懸念されていましたが、電話アンケートを行った企業等でデジタル化により、新たなビジネススタイルへ転換することができた企業はあったのでしょうか?またそれらはどのような産業に多く見られるのでしょうか?

 「電話アンケートを行った企業等でデジタル化により、新たなビジネススタイルへ転換することができた企業」があったかどうかは把握しておりません。本プレゼン(アンケート調査)は大震災での被災企業(グループ補助金の交付企業)を対象にしており、いわば二重の被害を受けた企業であることから、デジタル化と言われても、多くは追加投資が厳しい実状を把握することができました。

【質問6】岩手県においてはGOTOキャンペーンによってどれくらいの経済効果があったのか?

 岩手での電話アンケート調査はGOTOキャンペーン開始前に実施したことから、「これとは別に知っていますか」という質問であると理解いたしました。とはいえ、残念ながら、把握しておりませんし、他のいくつかの県と違い、公表データを目にしたこともありません(経済効果は「いくらか」という話ですよね)。また、キャンペーン停止により、どれくらいの経済損失が出るのか(推計)、というデータも同様です。他の県のものは見かけたことがありますが。

【質問7】お客さんが来ない観光スタイルのお話がありましたが、コロナ禍でデジタル化をどのように活用すべきか?

 観光業では観光客が被災地に来ないスタイルで稼ぐことが主流になるのは非現実的であると思いますが、コロナ禍に学べば、観光促進手法の選択肢は間違いなく増えます。主な活用戦略の一つが、デジタルトランスフォーメーションです。これはデジタル化とは明確に違います。後者がデジタル技術の活用そのものであることに対し、前者はデジタル技術を生かしたビジネスモデルの創出を目指すものになるのです。とくに対面・接触を前提としてきた「体験・見学もの」を、DXによりリアルかつ豊富な内容にしていくかが重要なポイントになろうかと思います(ニュー関係・交流人口創出)。観光プラン提示や観光地案内から土産物選びまで、あらゆるプロセスをAIが行ったり、観光資源をVR化・オンラインツーリズム化するということもありかもしれませんが、むしろ「ほぼ」対面・接触を実現することの方が人間味あふれるもので良いのではないでしょうか(とくに小規模人数)。

【質問8】デジタル化を進めるには地域ごとの格差などが障壁となって、そういった意味でも国からの支援金は必須となってくるが、デジタル化を進めていく上で各自治体ごとにできる努力は例えばどのようなことがあるのか?

 難しい質問をいただいたと思っていました。基本は独自性・補完性のあるソフト・ハードのインフラ整備(DX推進計画などの策定を含む)ということになろうかと思いますが、その延長線上にはさまざまな人材育成や情報発信(コンテンツ作りを含む)から始まり、テレワーク、地方移住や二拠点居住の受け皿として積極的に取り組むことが効果的ではないでしょうか。なお、既述のとおり、自治体そのものが行政のデジタル化を進める必要があるでしょう。

【質問9】スライドでは岩手県と宮城県における業種別企業の被害状況の調査結果が示されていました。またそれに対する施策として経営体制の転換、例えば「デジタル化」が提起されていましたが、他にも連携協力などの現時点で経営体制の転換に意欲的な企業の総数などは調査されていますでしょうか?またその点において岩手県と宮城県の企業で差異はありますでしょうか?

 既述のとおり、本プレゼン(アンケート調査)は大震災でのグループ補助金の交付企業を対象にしていますが、「グループ」と名付けられているとおり、形式的には、異業種であろうと、同業種であろうと、個別に加えて、グループ単位で連携・協力して地域・産業再建に取り組んでくださいという狙いがあります。したがって、実質的にせよ、形式的にせよ、連携・協力の素地はあるわけです。本プレゼンの展開としては、コロナ禍で再度、危機的な状況に追い込まれるなかで、実質的、発展的な連携およびそれによる経営体制・手法の転換が強く要請されているのではないかと思っております。ただし、この点でコロナ対応にかかわって、具体的な取り組みがあるのかないのかは把握しておりません。したがって、岩手と宮城の両県の差異もわかりません。なお、全国区等のアンケートであれば、例えばDXに取り組んでいる企業の動向、それに伴う課題などはデータとして明らかになっています。

【質問10】給付金はどのように使われたのか?支援によって地域経済を衰退させないために何を気をつけるべきか?観光業の新たなスタイルとはどのようなものを想定しているか?

 給付金とは持続化給付金のことですね?だとすれば、この給付金は、売上げが一定程度減少した企業に交付されるので、仕事を続けるための資金に充当されるのが一般的でしょう。コロナ禍に対応した新たな地域資金(所得)循環機能が見出されるべきであると思います。また、既述のとおり、地域内の企業間のさまざまな連携が重要になってきます。本プレゼンでも言及しましたが、例えば、おそらく全ての県であったかと思いますが、県単位で地元宿泊施設等を対象とする「割引クーポン券」事業が展開されました。地元住民が多く利用したわけですが、おそらくクーポン券がなければ、行く機会を持たなかったかもしれません。今回、地元の観光資源等を見つめ直す絶好の機会(宿泊施設からみれば、地元に愛される施設づくりの絶好の機会)となったわけですから、きちっと声を拾い上げて、施設や諸資源、さらに地域の見直しを実践して欲しいです。観光業の新たなスタイルについては、ここで具体的に挙げれば、膨大な分量になりますし、既に一部は記載いたしました。被災地であれば、第一次産業は必ずベースにしなければなりません。観光業者は屋外サービス(屋外空間の創造的利活用)や安心、安全なプランを積極的に提案することが重要になってくるし、観光・宿泊の現場では、おもてなしの方法を変えていく必要があり、供給側のコスト負担も覚悟しなければならないでしょう。修学旅行や各種の合宿など多人数となれば、稼働率を下げることによる損失を受け入れることになります。むしろ、ログハウスやグランピングのように、1棟、1張丸ごと貸し出しできるスタイルが高い評価を得るかもしれません。観光客に来てもらうスタイルで稼ぐことが主流である限り、観光業は、周知のとおり、さまざまな業務(職種)をこなす、いわば「マルチプレイヤー」であることから、経営が回っている限りにおいて、さまざまな人材育成の場であるし、人材不足の観点からみれば、他の企業と連携しながら、人材を融通するスタイルがあってもよいでしょう(副業的な発想もあり)。なお、ワーケイションの推進もありでしょうし、いわば外からくる人材と組んで、財務改善に取り組むとか、新たな商品・サービスを開発するとか、情報発信戦略やインバウンド戦略を展開するとかもありでしょう。