東北学院大学

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第3報告 質問・回答

2021年02月04日

宮城県水産林政部 水産業振興課 技術参事兼課長 生駒 潔 氏
「新型コロナウイルス感染症と水産業の現況」について

 

【質問1】養殖した魚介類を冷凍し、順次販売していく方法をこの講演で知ったのですが、この冷凍保存をするための維持費はどれくらいかかりますか?

 ホタテガイを冷凍保管する際には、貝を剥いて身だけにする加工料、冷凍倉庫の保管料と入出庫料(手数料)が掛かります。冷凍保管したホタテは、需要や市況の状況を見ながらこれら諸経費と利益を含めた価格で販売することになりますが、需給のギャップや市況の低迷が続き、諸経費込みの価格で売ることができず赤字が出た場合に、赤字の範囲内で、実際に掛かった加工料、冷凍保管料、入出庫料の2/3が補助される仕組みです。加工料、保管料、入出庫料は、業者によって、また預け入れ量・期間、保管温度帯などによって変わります。ある事業者の例では、水産物の冷凍保管料率4%、入出庫料率4%(保管する物の価格に対して)となっています。

【質問2】外食需要の低下によって養殖を行っていた魚を収穫できないという状況が起こっていると考えられ、ホタテガイの例では保管の対策が取られていたが、鮮魚についてはこのような対応は難しいと考えられる。鮮魚が需要低下によって出荷が難しくなった場合の市場や養殖事情への影響はどうなのか?

 魚類についても需要の低下が発生しており、西日本で多く養殖され重要な輸出商材にもなっているブリやタイは、海外需要の減少分を国内で消化し切れなかったため、【質問1】のホタテと同様に冷凍保管による需給調整が行われました。宮城県の主要養殖魚であるギンザケは国内向けが中心の魚で、家庭内消費の増加などで一定の需要が確保できたため、昨年は需給調整を行わずに水揚げ(3~7月)を終えることができましたが、再度の緊急事態宣言による外食需要低迷が長引いて今年の水揚げに影響が生じれは、冷凍保管による出荷調整などを検討しなければならなくなるかもしれません。養殖と比べると生産規模は小さいですが、沿岸で漁獲され刺身や寿司ネタなどに使われるヒラメやスズキなどの魚は、外食需要低下の影響を大きく受けます。このような魚類は大量の冷凍保存には向かないため、刺身用に加工して小口の真空パックで高鮮度冷凍するなどの工夫が必要になってくるのではないかと思います。

【質問3】コロナ禍での就業希望者と漁業関係者・水産加工業者とのマッチングで、実際に行なえた人数と、システムとして一時的な契約なのか、そうでないのか?

 10~12月末までに9人がマッチングされました。雇用期間などの契約内容は当事者間での取り決めになりますが、マッチングされた9人にはパートタイム、正社員両方が含まれています。

【質問4】本来、業者間で取引していた商品がインターネットを通して、一般消費者への需要に回すことは可能ですか?既に実施している場合、データの推移はどのように変動していますか?さらに日本人の人材はどのように確保しているのですか?

 需要の変化に対応して販売手法をインターネットなどにシフトさせている事例が多くあることは、事業者への聞き取り調査によって確認していますが、どのような品目がどの程度インターネット販売に変わったのかなど、定量的なデータは集計されていません。*個々の会社内にデータはあっても、統計的に集計するのは難しいと思われます。業務向けの商品を一般消費者向けに回すことは可能ですが、物によってはパッケージや量目の変更などが必要になることがあります。日本人の人材確保は、シンポジウムで紹介した「みやぎ水産業労働力確保緊急支援事業」により、求人企業と求職者のマッチングなどを行っています。

【質問5】県の経済支援やPR活動などによって水産業関連の消費はコロナウイルス流行の影響が出る前と比べてどのくらいの差になったのか?

 宮城県内だけの統計データはありませんが、全国の小売団体が公表した資料によると、スーパーマーケットにおける水産物の売上げは、昨年2月から12月まで11ヶ月連続で前年同月を上回っており、年末商戦で売上が大きい12月単月では前年比6~18%増となっています(*1) 
1「スーパー水産売上11カ月連続前年超え 20年12月既存店 年末 カニ、魚卵が好調」『みなと新聞』2021年1月26日付4面参照。著作権上、紙面は割愛。

【質問6】水産業は沿岸部での立地が強制される為、移動が自粛されたことで内陸部からの来客が減り、少なからず影響を受けたのだろうと感じた。また、ホテルや飲食店で提供される高級な活魚の売り上げが大幅に減少しているなかで、家庭内需要の拡大がしているということは、コロナ禍で売り上げが上がった例もあるのではないだろうか?と不謹慎ながら疑問を持った。他にも、国外への輸出が止まり、国内での過剰供給で値下がりを起きる状態は消費者の購買意欲を増幅させる状態を形成できている面で一概に危機的状況とは言えないのではないか?と感じる。一般消費者向けの売り上げが増大したとのことであったが、Go To トラベルで普段はいけないような高級ホテル等の利用増加は水産業にどう作用しているのか考えていきたい。

 巣ごもり需要の増加でスーパーマーケットなどにおける水産物の売上げは好調を維持しています。外食・観光需要については、流行が小康状態であった間はGO toトラベルやイートの効果もあって持ち直しが見られ、一時越前ガニが入手できなくなるようなことも起こりましたが、第3波の拡大と緊急事態宣言によって再び落ち込んだ状態になりました。このように感染症の流行状況や行政の支援施策などによって水産物の消費は変化しており、生産者が一概に危機的状況にあるという訳ではありませんが、外食・観光業とそれに繋がる仲卸業者、生産者などには大きな負担が断続的にかかっており、これらの事業者が感染症終息まで経営を維持することができなければ、サプライ・チェーンの一部が毀損して感染症終息後にも経済的影響が長引くことが考えられます。

【質問7】水産業分野において、人材確保の課題が存在し、そこで国内人材と漁業者とのマッチング支援や外国人実習生受け入れの支援等が対策として挙げられていましたが、市町村や地方自治体単位での受け入れ態勢が整備は行われているのでしょうか?地方の人口が少ない地域では、コロナウイルス感染者や外の県から来た人たちが排他的な扱いを受けることが少なくないように感じています。影響の大きさがサプライ・チェーンによって異なることがデータの中で示されていましたが、生産者は商品数を減らし、最も売れ筋の良い商品に特化するというような対応は行われているのでしょうか?

 水産業が盛んな石巻市や気仙沼市では、市独自の外国人技能実習生受入支援や地元求職者と水産加工業者をマッチングする支援などが行われています。他地域から雇用した従業員に対するケアはとしては、自治体によっては家賃補助など移住促進の支援策を講じている場合があります。また外国人技能実習生については、水産関係の実習生を受け入れる地元の監理団体によって、実修期間中各種のサポートが行われています。コロナの影響による売れ筋商品の変化への対応については、需要が高まっている商品へのシフトやネット販売の導入など、事業者によって様々な対応が行われており、売上を伸ばしている事業者も存在します。

【質問8】対策に外国人技能実習生当受入支援事業があったが、この現状で人は集まるのかが疑問や近年では外国人技能実習生への雇用主の対応が問題化されており、その対応は考えているのか?

 水産分野の外国人技能実習生は、母国の水産高校などを卒業し、現地送り出し機関による研修を受けた上で来日する方が大部分です。現在、母国で研修を終了してビザも取得し、入国停止が解除されるのを待っている実習生が大勢おり、昨年10月以降入国が徐々に再開されたことで、待機していた実習生の一部は来日することができました。緊急事態宣言の再発令によって再び待機状態になっていますが、今後入国停止措置が解除されれば、残りの方々も順次入国してくることになります。外国人技能実習について、雇用主の対応に問題があるケースがあることは事実ですが、実習生を大切に扱っている雇用主が存在することもまた事実です。このような問題が発生する背景には、技能実習が、途上国の人材育成を支援する国際貢献ための制度である一方で、日本国内では人手不足の解消に利用されていることがあります。日本の生産年齢人口が減少し、特に製造業や建設業などの仕事は技能実習生をはじめとする外国人の力無しでは回らなくなっているという現実がある以上、この問題の解決は簡単ではありませんが、2019年に「特定技能」という在留資格が新設され、一定の業種において、日本人と同等以上の条件で雇用契約を結ぶ等の要件の下、外国人労働者を受け入れることが可能となりました(別紙2参照)。今後、「技能実習」と「特定技能」の二つの制度がそれぞれの趣旨に沿って使い分けられることで、技能実習の問題も改善が図られるものと考えています。

【質問9】コロナ禍での人材確保支援についてのお話がありましたが、人材確保支援の現状と具体的なデータを知りたいです。また、今後行おうとしている人材確保支援の取り組みはございますでしょうか?

 宮城県ではこれまで、水産業に携わる人材の確保を支援するために、
・漁業分野では、平成28年から、宮城県での漁業就業を希望する人に対する相談窓口を開設するとともに、漁業に興味がある人向けの「みやぎ漁師カレッジ短期研修」(5日間程度)、本格的に漁業就業を志す人向けの「みやぎ漁師カレッジ長期研修」(現場実習を含め7ヶ月間)、漁業経営者と就業希望者のマッチングフェアを開催し、これまでにこれらの研修を通じて33人が就業しています。

・水産加工分野では、県内の水産高校生などを対象とする水産加工業職場見学会や水産加工と障害者をマッチングする水福連携推進事業を実施するとともに、新規従業員や外国人技能実習生を受け入れる際に必要となる従業員宿舎の整備を支援しています。これらに加えて、現在、コロナの影響に対応するためにシンポジウムで紹介した二つの人材確保支援事業を実施しており、今後も入国禁止措置の状況や国内での就業動向などを踏まえて、必要な支援策を検討していきます*2
*2 出入国在留管理庁「特定技能パンフレット」参照。

【質問10】水産業において外国人技能実習生の受け入れはコロナの影響が特に影響してくるのでここ数年は難しい状況に陥ると考えるが、逆に日本人の水産業の技能実習生・担い手というものはどのぐらいいるものなのか?国内の担い手を育成するための何らかの考えはあるのか?

 日本人の技能実習というものはありませんが、宮城県では、震災前の平均では年間20人程度が漁業に新規就業しており、それを底上げするために上記【質問9回答】の支援事業を実施しています。

【質問11】高級魚の需要減少による経済の影響はどのようなものか?コロナ禍で特産物をどのようにアピールするのか?人材のマッチングの効果はどのようなものか?

・高級魚の需要減少による直接的な影響は、それらの魚類を生産(漁獲、養殖)する漁業者の所得の減少です。従来の取引先に出荷できなくなったことで、スーパー等の小売りや価格帯の低い外食等に出荷されることになれば、漁業者の所得は減少しますが、消費者にとってはこれまで手が出しづらかった高級魚を食べる機会が増えることになります。
・これまでのように、駅や百貨店など人が多く集まる場所での物産展や、フードエキスポのような展示商談会が開催できなくなったため、独自サイトや既存プラットフォームの利用によるネット販売やSNSを通じたPR、B to Bではリモートによる商談などが行われています。また、感染症の流行が比較的落ち着いている時期・地域では、人出を抑える工夫をしながらの店頭フェアなども行われています。
・人材マッチングの直接的な効果は、求人企業にとっては事業活動に必要なマンパワーが得られること、求職者にとっては生計の維持に必要な仕事が得られることです。また一部では、コロナ渦を機に、人手が余っている企業との連携、求人地域の拡大、外国人技能実習生から国内人材への切り替えなど、これまでにない動きも見られるようになってきており、人手不足に対応するための企業の取り組みが進むことも期待しています。