東北学院大学

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第4報告 質問・回答

2021年02月04日

七十七リサーチ&コンサルティング株式会社
経済調査グループ 首席エコノミスト 田口 庸友 氏
「新型コロナウイルス感染症と製造業の現況」について

 

【質問1】このまま人口減少が進み、外国人労働者が増加していくと、どのような問題が起きると思いますか?また、外国人労働者が増加している中、外国人労働者と一緒にスムーズに働くにはどのような対策が必要だと思いますか?

 それ以前に、現状、多くの外国人労働者にとって日本の労働条件や生活環境など総合的にみて満足のいくものではなく、東南アジアなど新興国の経済成長と所得増加が進むにつれ、日本の労働市場の魅力が相対的に低下する今後、「人手不足だから外国人労働者の受け入れを増やせばよい」という発想は通用しなくなる可能性が高いと思います。なお、外国人労働者と一緒にスムーズに働くためには【質問7】の回答をご参照ください。

【質問2】コロナウイルスの影響によって貿易が減少していることに加えて外国人労働者の減少が起きていることと同時に、外出をしなくなったことによって一部製造業の内需は拡大していると考えられる。そのため、国内消費を目的とした製造業については人手不足が深刻化していると考えられる。しかし、グラフでは国内消費を目的としたものについては大きな落ち込みはないとしている。この問題についてどのような対応を行っているのか?またこれからどのような対策が必要なのか?

 ご質問の趣意が資料スライド15枚目だとすれば、このグラフで言う「影響度」は、海外とのサプライチェーン寸断や外国人労働者の入国制限による「事業・業況などへの影響」であり、「人員確保への影響」ではありません。したがって「食料品」や「紙・パ・印刷」「窯業・土石」など国内需要中心の業種で業況の影響が少ないのは妥当なものと思われます。

【質問3】県民経済計算において、岩手県・宮城県・福島県のデータが表されているが、震災後の主要産業の寄与度で岩手県・福島県が宮城県より下回っている理由には、どんな要因があるのか?ここには福島県の原発事故による風評被害も絡んでくるのか?

 被災3県はともに震災による工場設備等の毀損で製造業が低下した一方、インフラの復興需要で建設業が上昇しましたが、それに加えて宮城県は資料スライド5枚目にあるとおり、震災後まもなく進出企業(トヨタ東日本、東京エレクトロン)の新工場が稼動を開始したため製造業が伸び、他の2県よりも高い成長率となりました。福島県は風評被害よりも原発周辺の復興に時間を要したため回復が遅れていると考えられますが、もともと東北最大の工業県であり施設復旧とともに生産額も戻しつつあります。

【質問4】外国に依存することは宮城県にとってはメリットなのか?デメリットであるなら県や企業はどのような対策を講じているのですか?さらに業況が回復すると判断した製造業は、どのような根拠がもとになっているのですか?

 現在のような開放体系下のマクロ経済モデル(グローバル経済)のもとでは、各国(地域)が貿易(輸出入)することを前提に、自地域に強みのある分野の生産に特化・分業する比較優位が各国に効用を最大化するため、高品質でまとまったロットを総需要の減退する国内市場よりも海外向けに生産することは宮城県に限らず国内製造業にとって不可欠な戦略となっています。国際情勢の影響を受けやすいのがデメリットですが、その動向に関しては通常の景気変動として企業の自助努力で乗り切ることとなります。リーマン・ショックのようなシビアな景気後退の場合には、政府が景気・雇用対策で受注回復を待つのが常ですが、最近は景気対策が手厚くなってきており、特に雇用維持関連の施策は充実しています。製造業が回復する見通しなのはまさにその海外需要、と言うよりも世界的なIT関連需要の増加(ITサイクルの好転)が見込まれ、コロナ禍により急増したリモート通信がデータセンターなどの需要拡大に拍車をかけているからです。

【質問5】最も強く印象に残っているのが、県内製造業は国外情勢に左右される程、基盤が不安定だということである。国内需要が縮小しているなかで国外需要が拡大している状態とあったが、コロナウイルスにより国内での生産業をどう活発化させていくか、経済学を学ぶ立場から真剣に考えなければならないと考えさせられるよいきっかけとなった。疑問点として、東日本大震災のような建設物が倒壊する物的災害では建設業を筆頭に復興需要が得られたが、コロナのような人間をはじめとした生物のみに被害をもたらす人的災害では復興需要が発生するのか?が非常に疑問を抱いた。また、青森県八戸市では外国人労働者の62.3%が製造業で働いているとのことであったが、外国人労働者に依存しているような製造業がどのような対策を講じているのか?

 新型コロナウイルス感染症の経済への影響で東日本大震災との最も大きな違いは「被害の時間・空間的な広がり」と「復興需要の不存在」です。自然災害も疫病も経済システム外で生じた外部不経済ですが、被害が短時間の自然災害よりも経済損失が大きく、明確な被災地も復興需要(景気)もありません。その意味で過去最悪の不況であり、経済対策は医療的な対処法(医療体制、ワクチン開発・普及等)までは所得補償が中心、終息後に景気浮揚対策の出番となります。なおスライド19枚目の安定所別・産業別外国人労働者数で八戸所が最多なのは水産加工など労働集約型の工場が多いためと考えられ、入国制限による人手不足は影響しますが、同時に需要(受注)減少により工場稼働率も落ちたせいか、大きな混乱はみられないようでした。

【質問6】自分は低賃金の労働者が苦しい現状を踏まえて、ベーシックインカムというものを考えたが、その辺についてはどう考えているのか?

 本稿の論旨からは外れますが、2020年4月の補正予算成立により1人当り10万円の特別定額給付金が支給されましたが、一部の識者からは「ベーシックインカム」の社会実験として注目を集めました。新自由主義者でマネタリストでもあるミルトン・フリードマンが提唱した「負の所得税」もベーシックインカムと同一の意義を有しますが、従来から指摘されている最大の問題は財源であり、また先のわが国で露呈した社会保障インフラの脆弱性など課題は山積しており、当面は実現が難しいと考えられます。ただしわが国のセーフティネットや社会保障は脆弱で持続性に疑義が唱えられており、新しい制度設計のためベーシックインカムは検討すべき重要な選択肢の一つと言えます。

【質問7】コロナ禍で外国人技能実習生の環境を整えることの重要性をお話されていましたが、どのように外国人技能実習生の労働や生活の環境を整えていくべきか?

 外国人労働者は単なる「労働力」ではなく、文化や言語の違いを乗り越えて地域でともに暮らしていくパートナーとして受け入れていかなければならず、非常・緊急時の対応体制も含めて安心して共生できる環境を整備する必要があります。外国人労働者と一緒にスムーズに働くためには、コミュニティの一員として常日頃から円滑なコミュニケーションを図ることが何よりも重要だと思います。

【質問8】宮城県の製造業において外部需要の影響が強い要因とは何か?また、宮城県の製造業の雇用が2018年から減少している要因は何か?

 宮城県の主力生産品である電子部品・デバイスなどはもともと国内の半導体産業向けでしたが、経済のグローバル化が進むにつれ競争力を高め産業集積の進んだアジア(中国、韓国、台湾)での需要が増えたため、同国(地域)が関連する政情などにより受注、工場稼働率が振れやすくなっています。なお、2018年以降の減少は同年9月に米中間の報復関税第3弾が発動され、それ以前から中国でデレバレッジ(金融引き締め)などがあったことも影響して中国向けの電子部品、輸送機械、生産用機械等の需要が減少したことが大きな原因となっています。

【質問9】スライド内で外国人労働者の重要性について説かれており、また「暮らしのパートナー」としての環境整備施策を講じる必要があるともおっしゃっていました。とはいえ今回のコロナウイルス感染拡大時のような状況に置かれた際、充実した支援が必要に思われます。具体的にはどのような案が適切であると現在お考えでしょうか?

 外国人が安心して暮らせるためには公共施設や地域コミュニティなどの多言語対応化や、事故や病気など不測の事態にも対応できる体制など、日常生活において日本人と格差のない制度やソフト面のインフラ整備が不可欠ですが、特に新型コロナウイルス感染症の拡大期などで渡航制限があるときは帰国困難な外国人に日本人と同程度の経済支援を行う必要があります。そのような公的制度の裏打ちがある安心感の提供が欠かせません。

【質問10】食料品の平均給与と労働生産性を底上げするためにどうするべきなのか?外国人労働者への高い依存は将来的に見るとよいのか?女性の雇用確保するためにどうするべきなのか?

 労働生産性底上げのためには、品質に見合った価格設定(高く売る)ことが必要です。そのためにはフランド化して品質と認知度に裏付けられた付加価値向上を図るべきですが、人口減少と魚離れが進んで縮小一途の国内市場にこだわることなく、官民が連携して海外へと展開することも有効な方策です。海外は健康・和食ブームで嗜好が合えばまとまったロットを国内より高価格で販売することも期待できます。外国人労働者は何度か言及したとおり、今後は各国との待遇競争となる可能性があり、確保が容易でなくなる可能性があります。製造業は「肉体労働」「男の仕事」のイメージが強く、女性の就業割合が低い産業でしたが、今後はデジタル化やデザイン産業としての女性の活躍の場が増えると考えられ、企業や業界側のイメージ刷新の努力も必要です。

【質問11】ウイルスは商品製造の時に混入したりすることはあるのか?ある場合はどういう対策を講じるのか?

 生産工程の衛生管理については当職の専門外であり、お答することができません。ご了承ください。