東北学院大学

新着情報

年頭所感-大西晴樹院長・学長-

2023年01月04日

シュネーダー先生の遺産の上に

 
 201222-3_1.jpg 
院長・学長 大西晴樹
 

 

 新年あけましておめでとうございます。今年は五橋新キャンパスと、地域総合学部、情報学部、人間科学部、国際学部という4つの新学部が発足する大きな変化の年を迎えます。しかし、新入生は、既存学部生であれ、新設学部生であれ、キリスト教に基づく人格教育という建学の精神に根付いた東北学院大学の教養教育を受講することになります。

 さて、東北学院の礎を据えたのは、仙台神学校としての開設直後に着任し、半世紀の間、本院を指導し、「東北の聖者」といわれたアメリカ人宣教師デヴィッド・シュネーダー第2代院長であるといっても過言ではありません。それゆえ、新しい五橋キャンパスの高層棟は、その貢献ゆえに「シュネーダー記念館」と命名されました。シュネーダー先生の著作の中に、当時の日本のキリスト教教育論を代表する「基督教教育総合方針」(1917)という文書があります。先生は、その中で、キリスト教教育が育てるべき人物像を「確かな人間」(certain type of men)であると述べておられます。「消極的にいうならば、風潮に流されたり、人が置かれた環境に素直に服従しない人間であるべきである。…積極的にいうならば、自らの目的のために真理を考えたり、愛したりする人で、その知識は十分に消化されており、記憶された事実の単なる集合体であるよりも現実的なものなのである」。私はこの文面から、集団志向で、付和雷同的な行動をとり、現実と遊離した知識の暗記を好む日本の知的風土への警鐘を鳴らしたことは想定できましたが、具体的には何を意味しているのか分からないままでした。

 実は、目から鱗が落ちるような発見がありました。12月の初めに東北学院史資料センター主催で、手話教育の導入によって日本のろう教育に貢献した東北学院卒業生の髙橋潔、大曾根源助をテーマとした公開学術講演会・映画の上映会が開催されるということで、大阪出張の折に2人が校長を務めた大阪府立中央聴覚支援学校(旧大阪聾学校)を訪問しました。その際頂いた同校の『120年史』の記述に驚愕したのです。それは1922年に笑顔で撮影された同校教師男女13名の集合写真であり、そのうち4名が東北学院出身者であるとのキャプションの後にこう続いています。「撮影時期は口話教育台頭期と重なり、その普及の中で、口話教育に適さないとされたろう教員がろう学校から追われていく風潮も全国に広がっていった。その中、誰もがにこやかに撮影に応じている様は、きこえない教員もきこえる教員も固い絆で結ばれていたことを体現するかのようである。髙橋潔ら宮城県の東北学院出身が、当時の本校教育を推進する中心メンバーであった」。

 その後、ろう教育において手話が普及し、髙橋潔らは、大阪聾学校を拠点に日本のろう教育を変えていったのです。髙橋が音楽の勉強のために留学したいと相談した折に、シュネーダー院長は髙橋をこう諭したといわれています。「ボーイは外国などに行かない方がよい。…日本において幸せの少ない人の為に尽くしなさい」。その言葉の通りに髙橋は自分の好きな音楽から疎外されていたろうあ者の教育へと向かい、その内ポケットには終生シュネーダー夫妻の写真を忍ばせていたということです。

 それから100年が経過しました。戦争、環境破壊、疫病の流行にみられるように、私たちはある種の行き詰まりに直面しています。この閉塞感を打開するには、シュネーダー先生が「基督教教育総合方針」で示した「確かな人間」の育成が必要です。真理と愛をもって、孤立を恐れることなく、現実に応用可能な知識を十分に消化した人物です。東北学院大学は、近年TGベーシック科目にみられるような批判力や実践力や社会性を養うような教養教育に注力してきました。新キャンパス、新設4学部が発足する今年から、本学の教養教育をさらにブラッシュアップします。教養教育を主体的に担う教員集団である「教養教育センター」が本格的に稼働します。データサイエンスの必要性から「統計的思考の基礎」を選択必修科目に加えます。「課題探求演習」として教養ゼミが履修できるようになります。主体的な学修のために必要なアクティブ・ラーニングの施設は、土樋キャンパスのホーイ記念館に東日本随一の施設がありますが、五橋キャンパスの「シュネーダー記念館」にはその1.5倍の規模のものを用意し、「確かな人間」を育て、創立137年を迎える東北学院の伝統の継承を目指します。新しい年は変化と継承の年なのです。