東北学院大学

法学部

「18歳成人」とお金・その1(未成年取消権)

2022年08月25日

 この演習ではまず、契約のしくみや効力について確認したあと、未成年者の財産取引を保護する制度(未成年者の契約取消権。以下「未成年取消権」)・消費者を保護する制度(消費者契約法・特定商取引法)を学びました。また、これからの18歳・19歳にとって重要になると考えられる制度として、借金の仕組み(消費貸借)と、違法行為をした場合の損害賠償の制度(不法行為)についても学びました。
 そして実際に、6つの班に分かれて、これらの問題に関する実際の裁判例を検討しました。
 以下の連載では、各班が学んだ経験をもとに、羽田の発した問いをうけて書いた「感想」を紹介します。全員法律学科の2年生です(カッコ内はイニシャル)。

問い
 成人年齢が18歳になったことで、18歳・19歳は、親に無断で結んだ契約について、未成年を理由とする取消権を失いました。
 未成年取消しができるかどうかが問題となった裁判例について学び、あなたは「未成年を理由とする契約取消権」と「それを18歳・19歳が失ったこと」について、どう感じましたか。


1.A班=京都地判平25.5.23判時2199-52(親のクレジットカードを盗んだ16歳がキャバクラで豪遊した事案)

・私はこの事(18・19歳が未成年取消権を失ったこと)について、若者に責任を感じさせるという点で、良い自立のきっかけになるのではないかと考えた。今まで未成年を理由に出来たことが出来なくなったことで、より責任を感じると言うことが、身近になってくると思う。成人年齢の引き下げが実行され逆に出来なかったことが出来るようになり今までより自由になったことも出てくるが、自由になるということはその分責任を負うことも伴ってくるということを忘れないでおきたい。(S.K.)

・私は未成年を理由とする契約取消権を18歳と19歳が失ったことについて、これからの未成年は十分に注意しなければならないと感じた。また、私は契約取消権を失ったことに対して賛成である。契約取消権を行使された側が損しないためである。そして、高校生の時に学校で注意するべき点を教育の一環として教えるべきだと考える。契約取消権を失ったことによる被害をなるべく抑えるように教育していく必要があると感じた。(S.T.)

・「未成年を理由とする契約取消権」は、認められなくなりました。つまり、販売者と消費者の取引においては自己責任で行わなければならなくなったと言うことです。クレジットカードの仕組みやローンを組むことなどについては、絶対に高校生のうちから学ばなければならないものだと思っています。文部科学省が学習指導要領を改訂し、消費者金融のことを必修化して学習させるのが一番の方法だと思っています。消費者金融は「知識」重視で授業を進めるといいと思います。(Y.S.)

・私は社会に出て間もない、または社会に出てもいない18歳・19歳が未成年を理由とする契約取消権を失ったことはこれまで以上に若者の契約トラブルが多発してしまうのではないかと考えた。そこで義務教育や高校までの学習で契約に関する内容を充実させていくことが必要であると感じた。また問題は18歳・19歳を一括りにし、就職している人と進学している人に同じ扱いをすることなのではないかと思った。高校を卒業し就職をしている人は今まで社会人であり未成年でもあったためこれからの制度改革が必要である。(K.E.)

羽田のコメント:全般に、学ぶことによる対策に重きを置いた論調ですね。取消しをされる業者に対する配慮も一部で見られます。この事案の未成年者の年齢が低く、かつ、振る舞いに大きな問題があったことが影響しているのかもしれません。

2.B班=茨城簡判昭和60.12.20判時1198-143(高校を卒業したての18歳がキャッチセールス被害に遭った事案)

・以前よりも知識が必要になると感じた。民法が改正され18歳で成人になったが、いまだに自覚がない人も多いと思う。この18歳成人が個人に及ぼすメリット、デメリットをもっと若い世代に浸透させていくことが急務のように感じる。未成年取消権が使えなくなった旧成人者たちを深刻な詐欺被害から守るためにも、重要なことだと思うし、成人がもたらすメリットを存分に享受するためにも、国や教育機関によるサポートが必要不可欠だと感じた。(T.R.)

・私は未成年を理由とする契約取消権は非常に汎用性が高く、消費者トラブルから未成年者を保護する強力な権利なので未成年者だけでなく保護者のためにも有用な権利だと感じた。私はそれ故に、成人年齢引き下げにより18歳・19歳がその権利を失ったことは「若者が責任感を持つこと」や「選挙における若者投票率増加」といった予期される利点を差し引いても、現状の法整備や教育ではカバーしきれないトラブルに巻き込まれるなどの不都合が生じるのではないかと感じる。(I.Y.)

・つい最近まで18歳であった実体験から言うと、18歳とはかなり知識が無いと言わざるを得ない。社会でやってはいけないこと等の区別が存外ついていないのは、今になって気づいたことである。もちろん全員がそうであるとは言わないが、未成年の弱さは折り紙付きであるだろう。その弱さを保護してくれていた制度がなくなってしまっては、今までの教育などではカバーしきれないように思う。未成年取消権についても、これからの未成年に与える影響は大きいだろう。(I.T.)

・私は、未成年契約取消権を18歳19歳が失ったことに対して、そこまで批判的な目では見ていない。なぜなら、今回私たちが担当した事案では、18歳ではあるが職に就いているにも関わらず判断能力の低さは少し酷すぎたと思っており、そのような人が未成年取消権を行使することは相手方に不利すぎるのではないかと思っていたためである。しかし、私が想定外の事案はたくさんあり、そのような場合に未成年取消権を失った影響はどんなものなのかをこれからも調べていきたい。(T.N.)

羽田のコメント:こちらでは制度改正を不安視する傾向がA班より少し強く見られるように思います。この事案では未成年者の行動に問題性が少なく、かつ、事件当時には消費者保護制度が不十分で、未成年取消権に頼らざるを得なかった、という事情が影響しているのでしょう。

羽田 さゆり