私たちは、普段当たり前のように「言葉」を使っていますが、その背後には無意識のうちに「ルール」や「価値観」、「偏見」などが潜んでいます。こうした「言葉」のあり方を手がかりに、個人と社会との関係を見直し、多様な人とのコミュニケーションについて考える学問として「社会言語学」があります。
イベント概要
11月19日(水)16時45分~18時15分、図書館では国際教養学部・古川弘子先生のゼミとの連携イベント「著者と語ろう」を開催しました。本学で初めての試みであるこのイベントでは、社会言語学の研究者である関東学院大学名誉教授・中村桃子先生をお招きし、古川ゼミ・房ゼミの学生を中心に、一般学生も含めた計12名が参加しました。
参加学生は事前課題として、中村桃子(2021)『「自分らしさ」と日本語』ちくまプリマー新書の第2章「名前―『わたし』を表す言葉の代表」を読み、ワークショップでは、学生からの質問に中村先生が答え、続いて先生からの問いかけについて小グループでディスカッションを行い、最後に各グループの代表による発表と振り返りを行うという流れで行われました。
具体的な内容
ディスカッションの主なテーマは、次の3点です。
- 名前とアイデンティティについて
- 夫婦同姓(または選択的夫婦別姓)について
- 名前に関する日本と欧米の意識の違い
議論の中では、「SNSで複数のハンドルネームを使う若者は、アイデンティティをどう捉えているのか」「日本で夫婦別姓の制度改正が進まない最大の要因は何か」「夫婦別姓が当たり前の国々では、名前以外の何が家族の一体感を支えているのか」などについて、活発な意見交換が行われました。
印象的な場面
とりわけ印象的だったのは、ある学生が若者のアイデンティティを説明するために、サイコロの絵を描いて発表してくれた場面です。6つの面それぞれが「違う自分」を表しているが、いずれも1つのサイコロの異なる側面にすぎない、という説明から、アイデンティティは必ずしも「ひとつの中心を持つもの」ではないという感覚がうかがえました。
学びと成果
参加した12名の学生は、それぞれに異なる問いや気づきを持ち帰り、とても密度の高い学びの時間となりました。少人数でじっくり対話できる本イベントの方法は、学生同士や教員、著者との距離を縮めるうえでも効果的だったと思います。
今回のワークショップを取材するなかで、「人と人との関係によって呼び名が変わる」だけでなく、「言葉の選び方によって関係そのものが変わる」という視点の重要性をあらためて考えさせられました。たとえば職場で、お互いを「さん」付けで呼ぶのか、役職名で呼ぶのかによって、そこに生まれる上下関係や距離感は大きく異なります。言葉は単なるコミュニケーションの道具ではなく、人間関係そのものを形作る力をもつ――そのことを具体的に実感できる機会となりました。
図書館では今後も、授業やゼミとの連携を通じて、著者と語りながら学びを深めていくワークショップの場を提供していきたいと考えています。(図書館長 松村尚彦)
