先生の本棚

先生方に本を紹介していただくコーナーです。

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文学部・教育学科 渡辺 通子 先生

『若菜集』島崎藤村著,春陽堂,1897

島崎藤村(本名 春樹)が1896(明治29)年から凡そ一年ほどの間、本学に奉職していたことをご存じだろうか。語学教育に注力していた本学に、訳読(Translation)と作文(Japanese Composition)の教師として招かれたのである。弱冠26歳の青年教師であった。 「まだ上げ染めし前髪の林檎のもとに見えしとき・・(「初恋」)や「名も知らぬ遠き島より流れ寄る椰子の実一つ(「椰子の実」)」、(小諸なる古城のほとり 雲白く遊子悲しむ(「小諸なる古城のほとり」)は教科書に採録される定番の教材であり、国語の時間に鑑賞した人もいるだろう。これらを収めたのが第一詩集『若菜集』である。収録作品の多くは本学在職中に作られた。一度、51編の全作品に目を通して教科書教材となった作品以外に触れ、『若菜集』の世界観を味わってほしい。ヨーロッパの文学思潮を換骨奪胎し、日本の伝統を加えた甘美な抒情性ある詩風は文学の新たな始まりを予兆させる。藤村は表紙の装丁や挿絵にもこだわりを見せている。幸い本学には図書館や資料センターに複数の所蔵があり、刊行当時の初版本もある。図書館の活用や詩集の味わい方が広がることだろう。


法学部・法律学科 木下 淑惠 先生

『リンドグレーンの戦争日記 1939-1945』アストリッド・リンドグレーン著,石井登志子訳,岩波書店,2017

 『ロッタちゃんのひっこし』や『長くつ下のピッピ』などで知られる児童文学作家が、第二次世界大戦のとき書き綴っていた日記の翻訳です。著者の暮らしていたスウェーデンは、第二次世界大戦に参加しませんでした。しかし、大戦の影響を受けなかったわけではありません。著者が1人の主婦として、報道や仕事などを通して見聞きし感じたことが、当時の生活ぶりとともに書かれています。1人の女性の目に映る第二次世界大戦、当時の日常生活、さらには著者の人がらなどが、読み進めるほどに浮かびあがってきます。地名、人名が多く出てきますが、文章そのものは平易で読みやすい1冊です。

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工学部・機械知能工学科 濱西 伸治 先生

『今日の芸術 -時代を創造するものは誰か-』岡本太郎著,光文社文庫,2022

「芸術は爆発だ!」というCMでの名ゼリフよりも、「太陽の塔」で有名な芸術家と紹介した方が今の学生達には分かりやすいかもしれません。若者に人気の歌手が「太陽の塔の下でライブをするのが夢」と公言するほどの強烈なインパクトを与えてくれる造形とエネルギーは、「既存の常識や概念にとらわれずに」という私の研究に対する信念を支えてくれる、文字のない教科書のような存在です。学校では“個性”が大事と教えられて育ったはずのに、社会では“協調性”が大事…と壮大な自己矛盾を抱えながらこれからを生き抜かなくてはいけない若者たちにぜひこの一冊を。

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地域総合学部・政策デザイン学科 武藤 敦士 先生

『さいごの色街飛田』井上理津子著,新潮社,2015

“飛田新地”は大阪市西成区に所在する遊郭街である。売春する女性が誰にでも見える形で客をとっていることから、私は隣接する日雇労働者の街“釜ヶ崎”とともに、貧困問題を学ぶフィールドとして多くの学生を案内してきた。しかし、本書の発刊までこの街の実態を明らかにした文献はほとんど存在せず、知りたいけれどわからないことの多い街であった。本書はこれまで明らかにされてこなかったこの街の実態を、関係者への取材と様々な資料の分析から明らかにしたきわめて貴重なルポルタージュである。本書を読み、この街を訪れ、女性の貧困問題について考える機会にしてもらえれば幸いである。

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教養教育センター教授 信太 光郎 先生

『ミドルマーチ』ジョージ・エリオット著,廣野由美子訳,光文社古典新訳文庫,2019

作者のジョージ・エリオットは、ダーウィンの同時代人であり、ハーバート・スペンサーとも交際があった。革新的な進化理論が生み出された19世紀イギリスの時代精神が、この作品の底にも流れている気がする。主人公の一人ドロシアは、理想にもえた結婚生活に失望したかと思えば、恋人の裏切りへの絶望のなか保った分別から幸福を掴み取る。

結局ドロシアは、聖女にも悲劇の主人公にもなれない人生を送ったのだが、しかし、そうした無名な人々の「生きよう」とする姿勢そのものが、人間世界をより良きものにしていくのだと作者は考えている。これはダーウィンが、大小問わず個々の生き物の生存への努力こそが、生物界全体の進化の原動力であるのを見出したことと通じているように思われる。

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経営学部・経営学科 松村 尚彦 先生

『力と交換様式』柄谷行人著,岩波書店,2022

資本主義は、経済的な格差、気候変動、人間の孤独など深刻な問題を引き起こしている。こうした資本の力に対抗するために、様々な社会運動が繰り広げられてきたが、今に至るまでその破壊的な力は止まることがない。

著者である柄谷氏は、マルクスの『資本論』を独自の視点から解釈し直すことによって、資本主義の弊害を乗り越える新しい社会が、人間の努力によるのではなく、「人間の意志を超えて働く力が『向こうからくる』ことによって出現する」のだと主張する。

柄谷氏は、マルクスの思想に対するラディカルな再解釈が評価され、2023年4月に哲学のノーベル賞と呼ばれるバーグルエン賞を受賞した。

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国際学部・国際教養学科 松谷 基和 先生

『核戦争の瀬戸際で』ウィリアム・J・ペリー著,松谷基和訳,東京堂出版,2018

2022年2月に開始されたロシアによるウクライナ侵攻は、深刻化の一途を辿り、核戦争の可能性まで囁かれている。

著者のペリーは1990年代に米国国防長官としてウクライナに配備された旧ソ連の核兵器の廃絶をロシア・ウクライナの国防当局との協調の末に成し遂げた人物である。この経験をもとに彼は一貫して米国が核大国ロシアを重視した慎重かつ包容的な外交政策・核政策の重要性を唱えてきた。

本書を読み直せば、彼の警告を無視した米国の政策が今回の危機の伏線にあることが一段と明瞭になる。

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地域総合学部・地域コミュニティ学科 目代 邦康 先生

『大地の動きをさぐる』 杉村 新著,岩波現代文庫,2023

日本でしばしば発生する地震は,地球の表面を覆うプレートの活動によるものです。その研究は,日本では1970年代以降に進みます。その知見はプレートテクトニクスとしてまとめられ,現代では地球を理解する根本原理の一つになっています。

この本では,地質学,地形学,地球物理学といった各分野の成果から,「大地のうごき」を,平易に解説しています。初版は1973年に出版され,その50年度の2023年には文庫版が出版されました。地球の営みの本質を示している本であるため,子供だけでなく多く専門家にも読みつがれています。

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