特別展示コーナーの展示物

無垢浄光経自心印陀羅尼 一巻
神護景雲4(770)年刊

百万基の木製の小塔に、百万枚の経巻が納められていることから、百万塔陀羅尼の名がある。
『続日本紀』巻三十、宝亀元(770)年四月戊午の条に、称徳天皇の発願により始められ、六年余月を経てその大事業が完了、百万基の小塔を幾つかの寺に分置したこと、等の記事がある。また、『東大寺要録』等の史料から、分置された寺は、東大寺のほかの十大寺であることも知られているが、百万基の大部分は災禍により焼失或いは散逸し、現存は法隆寺のもののみである。
その百万塔陀羅尼は、韓国仏国寺釈迦塔内から発見された『無垢浄光大陀羅経』(ca.751)、敦煌文書の内の『金剛般若経』(868)と並び称される、東洋の印刷創始期の重要史料として知られているものである。
百万枚の陀羅尼には、この「自心印陀羅尼」のほかに、「根本陀羅尼」「相輪陀羅尼」「六度陀羅尼」の計四種の経文がある。「自心印陀羅尼」は、字句の部分の虫損も少なく、経文(咒)全文を存する好資料である。
なお、貴重な本資料は、平成13年3月、元本学教養学部教授、(故)渡利千波先生より寄贈されたものである。

Darwin, Charles(1809-1882)
On the origin of species(ダーウィン『種の起源』)
London , J. Murray , 1859

生物進化の考えは今日では一般常識になっているが、この思想は19世紀後半、ダーウィンが『種の起源』を世に出すことによって確立したと言っても過言ではない。その後の進化論はダーウィンの説を出発点として展開した。本書は初版であり書き込みや劣化がほとんどなく、巻末には当時の出版者のブックリストが綴じ込まれている。
【324192、324241】

Hobbes, Thomas(1588-1679)
Leviathan, or the matter, forme, & power of a common-wealth
ecclesiasticall and civill(ホッブス『リヴァイアサン』)
London, Printed for Andrew Crooke, at the Green Dragon, 1651

市民革命期イギリスの代表的政治思想家ホッブスの主著。原題は『リヴァイアサン、すなわち教会的ならびに市民的国家の内容、形態および力』であり、1651年にロンドンで出版された。“Leviathan” は聖書に出てくる怪獣で、その形態や生態は特定できず、様々な解釈がなされているが、神に反逆し、未だ滅ぼされていない危険な存在として一般に認識されている。ホッブスはこの怪獣に「国家」を象徴させている。通常、初版と称されるものが3種あると言われている。
【52709】

William Shakespeare(1564-1616)
William Shakespeare: comedies, histories and tragedies
(シェイクスピア『シェイクスピア全集』)
2nd ed, London, Thomas Cotes for Robert Allot, 1632

ウイリアム・シェイクスピア(1564-1616)の死後七年を経て、ジョン・ヘミングらの手で刊行された最初のシェイクスピア戯曲全集である。一般にはフォリオ(Folio-二折本)の名で知られており、第一版から第四版までがある。1632年に出版された本書、セカンド・フォリオ(第二版)は、ファースト・フォリオ(第一版)を訂正、加筆したものである。内容は、本文の細かい異同を除けばファースト・フォリオと同じであり、シェイクスピアの全戯曲のうち『ペリクリーズ』を除いて、喜劇14篇、歴史劇10篇、悲劇12篇の合計36篇を収録している。この版について特筆すべきことは、シェイクスピアに次ぐ第二の詩人、ジョン・ミルトンの最初に活字になった作品、『われらが称うべき劇詩人、W・シェイクスピアに捧ぐ碑銘体詩』が載っていることである。
【246583】

Erasmus, Desiderius (?1466-1536)
Moriae Encomivm, id est, Stvlticiae laudatio, ludicra de
clamatione tractate(エラスムス『痴愚神礼賛』)
Basel : Hieronymus Froben & Nicolaus
Episcopius, 1540 377, (12)p. (Bound with)
Spongia Erasmi aduersus aspergines Hutteni
(エラスムス『スポンジア』)1st ed. 1st issue
Basel : Johann Froben, 1523 (60) leaves : 18cm

エラスムスは北欧ルネッサンス期最大のキリスト教主義人文学者。ユマニスト作家として評価が高く、16世紀を通しての著作が出版部数も一位を占めるといわれる。本書は上記二著作の合冊本。
なお、「自由意志論」で「奴隷意志論」のルターと対立したことは周知のとおりである。
【0191A2331】

Luther, Martin (1483-1546)
[Works](宗教改革者ルターの初版本)

1520年刊行のマルティン・ルター『教会のバビロンの虜因についての序曲』、『キリスト者の自由』、『ドイツ国民のキリスト教貴族に与う』の、所謂宗教改革三大文書、更には1522年の新約、1523年に旧約聖書の刊行を中心に、当時のドイツにおける出版物のほぼ三分の一をルターの著作が占めていたといわれる。著作の多さ、印刷部数の多さ或いは柱ともいえるドイツ語訳聖書の普及等の波及効果からも、マルティン・ルターが近代の標準ドイツ語の確立者としての地位を得ていることも肯定されるであろう。全18冊所蔵。

Chronicles of St. Albans(セント・アルバン年代記)
St. Albans : Schoolmaster Printer, ca.1485
1 vol. : 28cm : Woodcuts(木版本)

年代記はヨーロッパ中世の代表的史書である。本書『セント・オールバンズ年代記』の見開き頁は、欠地王で知られるKing John(在位1199-1216)の関係記事の部分が、後年になって公権によって朱筆で削除されたものとの推測がなされている。
なお15世紀における木版本は、30余種100余版ほどの存在が知られている。国内での所蔵は慶應義塾大学と本学だけであり、世界でも数点確認されているだけである。
【184908】

Chaucer, Geoffrey (?1340-1400)
The Canterbury tales (チョーサー『カンタベリー物語』カクストン版)
London : William Caxton, 1478
one leaf

本書は詩人チョーサーの名を文学史の上で不朽のものとした作品として知られる。当時の社会の様相を写し出す人間劇とも評される。
インキュナブラの『カンタベリー物語』は、カクストン以外の出版も幾つか知られている。
なお、この1478年のカクストン版は他のインキュナブラものと比して誤植が多いとの指摘もされている。
【309115】

Augustinus, Sanctus Aurelius (354-430)
Ex Liblo Retractationvm : Conffesionvm mearvm Libri …
(アウグスティヌス「告白録」)
Mediolani : Bonus Johannes, 1475
1 vol. : 22cm

15世紀、聖書以外の信仰書の中で群を抜いて出版が多いのはアウグスティヌスの著作である。『神国論』『詩篇注解』の単行の他に、既に『アウグスティヌス全著作集』(ポーランド、クラクフ出版)の刊行も知られている。
本書はイタリアにおける初の刊行として名高く、また僅部の出版の一部の稀覯書である。
【0197A340】

Biblia [Latin Bible](コーベルガー印行 ラテン語聖書)
Norimberge, Antonii Koberger, 1487

15世紀後半、中央ヨーロッパ最大の商業都市であり、自由都市でもあったドイツ南部のニュールンベルグで、印刷業者として最も幅広い活躍をしたアントン・コーベルガーによって刊行されたラテン語聖書。聖書本文の回りを、フレンチェスコ会士、リールのニコラウスによる注解が取り囲み、また、手彩色をほどこした木版挿画も含まれ、たいへん美しいレイアウトになっている。本書は、旧約聖書の創世記から列王記までを収載している。ルターの宗教改革以前の出版であり、初期刊本やラテン語聖書に関する研究資料としても貴重なものである。
【0199A2380】

Biblia Latina [Latin Bible](レンナー印行 ラテン語聖書)
Venice, Franciscus Renner de Heilbronn, 1480

ヴェネツィアで6番目に印刷所を開設したフランシスコ・レンナーは、フランクフルト出身のニコラウスと共同で1473年から神学書の印刷を行い、1475年にイタリアで最初のラテン語聖書を刊行した。本書は、レンナーによる3度目のラテン語印行聖書で、1476年のヤンソン印行聖書を基にしたウルガタ聖書(聖ヒエロニムス訳の公認ラテン語聖書)である。頭文字の装飾が美しく、特に金色を配した5つのイニシャルは状態も良く、華やかである。見開きには、Richard Randall、George Abramsの蔵書票と共に、Augustus Frederick, Duke of Sussexのものと言われる蔵書票が貼付されている。
【0102A538】

Gutenberg Bible(グーテンベルク「四十二行聖書」)
Mainz : Gutenberg, ca.1455

「四十二行聖書」は、グーテンベルクが発明した活版印刷技術により初めて印刷された聖書として知られている。総642葉、目次4葉で構成され、完全本は世界に数十冊しか存在していない。それは古いばかりでなく、現在も世界で最も美しい印刷物とされており、美術的価値も高い。その名前の由来はほとんどのページが42行で本文を組んでいることによる。
本図書館の2葉は1455年頃マインツにおいて刊行されたグーテンベルク「四十二行聖書」のうちの2枚(4頁分)である。
【245746、304729】