東北学院大学

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学長の部屋

学長室だより

第11号 学長巻頭言『 改革する大学、生きている大学 』

1.大学改革と私

この4月、学長に就任して4ヶ月になろうとしている。突然、学長職にお招きをいただいて、戸惑いと不安はあったが、とても光栄で、うれしく感じたことでもあった。その力量が備わっているかどうか心もとないところであるが、お役目をいただいたことを神のご意志と信じて全力をつくす所存である。私自身、大学の働き人として、成長していきたい。使徒パウロが言う。「私が植え、アポロが水を注いだ。しかし成長させてくださるのは神である」、と。そう信じたい。

私はまず国立大学教員となり、研究・教育に没頭して何年かすごした。2種の仕事は、まさにこの順であった。次第にこれら以外にいろいろな役を与えられるようになったころ、「自らは何も改革しない大学」への、政府や財界からの外圧が急速に強まって、教養部は解体、「自己評価」とか「学位」「セメスター」への取り組みが急務とされて、「教育・研究」の順が強調されるようになった。次いで「大学院重点化」の嵐が訪れ、学科・学部の再編が(外から)求められた。いわゆる教授組織の基であった講座制も従来の形では維持できなくなった。学則も変わるから、その作業は大変だった。そして国立大学は「法人化」に追いやられていった。その条件として、「中期目標・中期計画」策定が義務であった。

私立大学も同様の経験をしたのだろうと思う。私はこの時期、大学評議員、文学部長・研究科長の任にあって諸改革に関わらざるを得なかったが、最後まで、先に述べた「外圧」で大学は改革をやらされている、という意識が抜けなかった。そんな中で、では大学はこのような外からの要請にどう応えていくべきか、それも自らの意志で、と考えざるを得なくなっていった。

もちろん「外圧」とは言っても、日本経済団体連合会などは別として、中央教育審議会や文部科学省の諸会議体には少なからぬ大学人(天野郁夫氏など)が関与していたわけで、彼ら大学にあって社会的要請に応えるのに鈍い大学人の内在的反省と危機感を持つ人たちが、政府側の諸審議に参画した上で、行政の指示文書が公示される、という状況ではあっただろう。そして私の世代で、この時期に定年を迎えた世代の先生たちが、相次いで自らの大学論を書き、公刊された例も多くあったのである。それら著作には、象牙の塔とは言わぬまでも、研究三昧が保証されていた(そのとおりではなかったにせよ、そう思えた)かつての大学教授時代を懐かしむ文章もないわけではなかったが、大学人として、学生という人格に向き合い、教育するために、もっとなすべきことがあり、大学が改革されなくてはならない理由も自覚していながら十分にできなかったことへの悔いの念もまた吐露されていた。

私も、それほど強烈でも、積極的なモチベーションに結晶させるほどでもなかったが、大学のこれからについて思うところは次第に積み重なっていた。国立大学法人が軌道に乗り始めた頃、私は定年を迎え、私立学校に移った。そこにある大学に直接場所を得ることはなかったが、大学運営をすぐそばで見ることになり、大学、今度は私立大学にシフトしたわけだが、それへの理解も多少深まり、ことに2018年問題を、耳が痛くなるほど聞かされて、大学の直面する危機の深刻さをより強く意識するようになった。

この間、いくつかの大学の改革の話を聞き、キリスト教学校教育同盟や私立大学連盟のフォーラムなどを経験して得たコンセプトは、「改革し、生き生きとした大学でなくては生き残れない」というものだった。

2.東北学院大学の基本線

学長就任時に、就任の言葉を求められ、マニフェストとしてわかりやすく、実行すべきで、また実現できそうな事柄を示そうと思った。それには項目立てに越したことはない。そうして5つの項目を構想した。次のようになる。これは紙面でもHPでも公表しているところである。これを掲げた上で、具体的にどのように展開していくかについての所見を述べたいと思う。

  1. 東北学院の建学の精神である福音主義キリスト教を守り続けます。Life, Light, Love の3L精神、また「地の塩、世の光」として生きる姿勢を学生に伝えます。
  2. 社会から、また産業界から求められる人材を育てます。変動する現代社会のニーズを敏感に受け止め、教養学部の地域構想学科、文学部の総合人文学科、経済学部の共生社会経済学科、などの新設が示すように、教育カリキュラムの見直しを常に行い、「即戦力」を持つ、「学士力」豊かな学生を育てます。
  3. 東北学院大学は創設以来「教養教育大学」を基本理念として来ました。6つの学部は、文系・理系それぞれの高度な専門分野に秀でる学生を育てますが、そのすべてが、人間と社会と文化への深い理解と洞察力を共有できる教養教育が身につくようなカリキュラムを提供します。
  4. 2011年3月11日の東日本大震災後の復興のために、東北学院は、研究において、ボランティアにおいて、地域社会と協働して全力をつくしてきました。「震災学」という研究を立ち上げました。これからも宮城県や仙台市、また仙台の諸大学と協力してゆきます。復興のためにはたらく人材を育てます。
  5. 学生にとって魅力的な大学でありたいと思います。美しく、効率的なキャンパスづくりを目指します。新たに得られた土樋地区北のキャンパス構想に着手します。また、大学キャンパスは、地域のものです。開かれた大学でありたいと思います。

性質上、抽象性が高いのはお許しいただくとして、この5項目のそれぞれについて具体的なプランを設定していくと、本学が当面実行すべき課題はほぼ包摂されると思う。

まず、(1) については、現在行われている礼拝が、他の全国のキリスト教大学に比して最上位の出席者数を誇っていると見えるところから、現状維持に努めればよいと考える。ただ、礼拝説教の霊性の高さの維持に留意する努力も怠れない。また、(3) と関わるが、東北学院の歴史を学ぶ機会、それを授業科目とするのがベストであると思われるが、どこかに設けてはどうか、と考える。後述するTGベーシック構想段階で、「TG学」というような科目の話も出たと聞く。「尚絅学」という科目は同大学では既に設置され機能している。同様の試みは、建学の精神浸透の取り組みとして多くの大学で進められている。文部科学省レベルの私立大学への要請項目の中にすら掲げられているところでもある。

(2) は、やや曖昧に2つの方向性を提示している。ひとつは、文字どおり学生に「即戦力」をつける努力である。「就職力」でもよいが、内実的には現場対応のノウハウだけではなく、東北学院卒業生が持ち前としてきた、人柄の良さとか奉仕精神、ある意味「コミュニケーション能力」をも含む「社会人力」である。本学の就職支援が、関係教員職員の献身的努力のおかげで高度なレベルに達しているのは、誇るべきところである。これからの課題は、およそすべての授業が学生のための「キャリア支援」を意識した授業であることを、ことに教員が認識し、教えた学生の卒業後の進路に、まなざしを注ぐ努力を強めることであろうかと思う。

(2) のもうひとつは、地域構想学科、共生社会経済学科、と近年設置の新学科名を掲げたことに関する。これらはそれぞれ、現代社会の状況に対応すべく設置されたものと評価される。そしてある程度の成果を挙げたと判断されていよう。「改革する大学」へのアプローチの一つである。学部学科編制上の改革は、本学が、法人レベルでも教授会レベルでも久しく求められている課題であり、これら学科新設構想と合わせ、学部・研究科再編・新設も論議されてきたところである。改革のための改革ではなく、大学自体の生き残りのための学部研究科編制というものを考え、中期レベルで実現していかなければならない。マクロ、つまり新学部を考える一方で、新規授業科目、専門分野の開拓、それに伴うカリキュラム見直しなどの、ミクロ的改革は小回りの利くことでもあり、直ちに取り組むべきである。

(3) は、「TGベーシック」の実施、という既に始まった改革を念頭に置いて掲げられている。斎藤学務担当副学長の推進エネルギーによるところが大であり、しばらくはお願いしなくてはならないが、科目の再三の見直しと授業作法のFDは恒常化させなくてはならないから、全教員の協力が不可欠である。

(4) については現在の方向性を守っていくべきである。参加する学生、のみならず教職員のモチベーションをいかに維持するか、企画し推進する人材がもっと必要であろう。

(5) は簡単に記してはいるが、極めて大きい問題を内包する。先の「学長室だより」の中川、桜井、原田の諸先生の寄稿はすべてこのことに関わっている。明確なのは、土樋キャンパス北地区のラーニングコモンズ建築計画である。この9月以降、図面作成が具体的日程に上ってくる。完成までの作業を、ハード面での本学の新しい魅力づくりのために効率的に活用したい。ラーニングコモンズ完成は平成27年度であり、その後直ちに土樋キャンパスの老朽化した研究棟の建て替え、そして泉キャンパスから土樋キャンパスへの統合、というスケジュールが、工学部の将来構想をにらみつつ進められていく。そしてその前に忘れてならないのは土樋キャンパス自体の美化計画である。グリーンキャンパス実務者会議で、魅力的な提案がいくつも出されている。補助金獲得計画が進んでいるが、本学自体の財政出動は不可避であり。それにラーニングコモンズを待たずとも着手できる、あるいはしなくてはならない改装計画もあり、ぜひ実行したいと思う。

以上、私の5項目について補足してみたが、言及できなかったのが、教員の研究の推進と成果の社会的還元、またそのための評価、という問題である。このことは、5項目が社会と受験生を意識して考えたために生じた欠落であって、重要課題であることは言を俟たない。また、いわゆるグローバリゼーションについて触れていない。これも推進しなくてはならない分野である。

国際化に関しては、文部科学省も私立大学連盟も財界も、異口同音に掲げ続けている項目である。参考までに、平成25年7月23日の私立大学連盟理事会で提示された、いわゆるアクションプランを紹介しておこう。私大連では平成23年6月に『21世紀社会の持続的発展を支える私立大学-「教育立国」日本の再構築のために-』を公表し、10の提言を行ったが、その中で「教育の多様性と重層性」「大学の国際化」などがうたわれていた。その検証のために、また大震災後の復興、そして政権の交代をもにらんで、第2期私立大学21世紀委員会(委員長:白井克彦早稲田大学学事顧問)が策定したものである。そのための6つのアクションは次のとおり。

  1. 私立大学は、建学の精神に基づいた多様な教育研究活動、社会貢献活動を推進する。
  2. 私立大学は(以下略)、教育の質的転換を図る。
  3. グローバル化を推進する。
  4. 地域社会を振興・活性化する。
  5. 社会のイノベーションを推進する。
  6. 高等教育への公費投資拡大と高等教育政策のパラダイムシフトを推進する。

これを引っ提げて文部科学省に予算要求を出していくという戦略的なマニフェストであるが、本学の将来構想と重なるものといえよう。ただ、私が言及しなかった「グローバリゼーション」の項目では、「グローバル人材の育成」「学生の留学支援」「教育環境の整備(英語授業比率の上昇、海外キャンパスの設置拡大、国際インターンシップ充実、など)」「留学生の受け入れ」が掲げられている。

次々と出されるこの種の提案に応対の暇はない、という面もありはするが、大学をめぐるトレンド、あるいはむしろ要請・強制の風当たりには我々としては敏感でなくてはならないであろう。

3.学長室の役割-たとえば「スポーツ奨学金規程」のことなど

東北学院大学学長室は、星宮前学長時代に、学部横断的、全学的プロジェクトの構想推進を企図して設けられたものである。そのための予算措置もなされた。その実践活動の成果は少なからず挙げられるであろう。科研費その他外部資金の導入などの負担の多い課題も引き受けて、任務過多の現状にあることは間違いなく、すぐにも何らかの支援措置が必要とされる。しかし、創設時の、全学的課題に、部局エゴにとらわれないで取組み、実行していくというコンセプトは決して捨ててはならないものである。

東北学院が当面する状況は厳しい。建学の精神は決して休むことを許さない。そうでなくとも、大学は走り続けなくてはならない運命にある。それを承知し、引き受けていこうではないか、と思うのである。「競技場で走る者は皆走るけれども、賞を受けるのは一人だけです。あなたがたも賞を得るように走りなさい」(Iコリント9:24)、と生涯伝道者として走り続けたパウロが語っている。「改革し、生きている大学」でなくてはならないのである。

そのための課題は、TGベーシックも、ラーニングコモンズも、ボランティア推進も、いずれも全学的視野で進められるプロジェクトである。この傾きはさらに強まっていかざるを得ない。社会は、大学を全体として捉え、評価し、批判し、要請してくるのである。ということは受験生についてもある程度言えることである。もちろん特定学部が目に見えるパフォーマンスを示すこともありうる。しかし、それも大学全体のイメージアップにつながるのは間違いないところである。

学長としては、こういうわけで大学全体への目配りを第一に考え、何をなすべきか、を追究する。学長室に多くの働きを依頼し、動いてもらっているが、同時に全学部長集団との意見交換と情報交換、アイデア要請、そして将来構想論議を頻繁に行い、これからの方針立案実行の主要合議体として大いに頼っている。このような全学横断的協議から、将来にとって重要な提案を行っていくことになる。提案と実行に際しては真摯なアカウンタビリティに努めたい。

既にこのようなスタンスでの提案はいくつかなされ、実行されているし、これからもなされていくはずである。その中で先般提案したのが「スポーツ奨学金規程」である。多様な学生、個性的な学生、向上意欲ある学生を大学が願うのは間違いではあるまい。スポーツだけに視野が限定されるべきではなく、これからの学生確保の一環として理解願いたいところである。既に文化活動に秀でた受験生への門戸は開かれている。そのような観点から「スポーツ奨学金」を再評価願いたいものである。

学長としてはこのように、学長室と学部長会・副学長と一体となって、多くある全学的課題のプライオリティに配慮しつつ、東北学院の前進のために全力をあげる。その過程の透明性あるいは風通しの良さを大事にするために大学ホームページの「学長のテラス」のブログを活用したいと考えている。定期的にチェックをお願いしたい。

東北学院大学 学長 松本 宣郎