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学長見聞録 vol.5:古代遺跡の魅力と若者たちへの期待

(東北学院時報 2016年5月15日発行 第733号)

学長見聞録 vol.5:古代遺跡の魅力と若者たちへの期待

ゲスト:青柳正規東京大学名誉教授(前文化庁長官)

松本宣郎学長と青柳正規東京大学名誉教授は、東京大学で助手を務めていた頃から親友の間柄。その後、イタリアのシチリア島で共に発掘調査を行ったこともあり、40年来、それぞれの分野の研究に邁進しながらも途絶えることなく交流を深めてきた。

松本
青柳さんは、どうしてローマ美術の研究に取り組もうと思ったのですか?
青柳
最初はルネッサンスをやりたかったんですが、当時の作家の人間性や生まれた環境までも知らなくてはならなくて、これは大変だと。また、大学3年の夏休みに乗鞍の学生村で古代ローマも勉強してみたら面白くて、そこからですね。
松本
きっかけとなった書物などはありましたか?
青柳
その頃の美術本でスキラ版というスイスから出版されている素晴らしい美術全集があって、ポンペイを中心としたローマ絵画に魅了されました。
松本
最初にイタリアへ行かれたのはいつ頃のことですか?
青柳
24歳のときにイタリア政府奨学金を受けてローマへ行きました。現地で見た遺跡は、なんて大きいんだろう!二千年も前のものがどうして残っているんだろう?と感動しましたよ!
松本
そこから深く研究されて、結局ローマ人はどんな人間だったのですか?
青柳
科学が発達しているわけではないから神様に対してかなり臆病な部分があって、何かあればすぐに占いに頼ったり。プラグマチックできびきびと物事を進めていくんだけど、どこかで弱さも持っていて、そういう人間らしい部分がとても面白いと感じました。
松本
これまで見てきた遺跡の中で、これだと思う場所を教えてください。
青柳
やはり、リビアのレプティス・マグナですね。中心にあるバシリカの建築装飾は、トルコのアフロディシアスの職人たちがあの場所へわざわざ行ってつくったんですよ。
松本
古代の人たちは意外と移動していることに驚かされますね。ところで、青柳さんは東日本大震災後に文化庁長官になられたわけですが、被災地の文化財はどんな状況だったのですか?
青柳
津波被害を受けた地域で遺跡が見つかったのですが、「復興の妨げになるから早く調査を終わらせてほしい」という要望がありました。しかし、いざ調査を進めていくと歴史的価値の高い遺跡ということがわかり、その場所は公園になりました。町としては再建が第一だけれど、遺跡調査や文化財を修復することで、そこに暮らす方々の生きがいの一つになったことは嬉しかったですね。
松本
今の若者たちに何か望まれることはありますか?
青柳
我々の時代のように単純な将来を描くことができなくなっていると思います。やさしい気持ちで目配りができて、みんなと良い方向へ歩んでいけるリーダーが、今の社会では求められているのではないでしょうか。
松本
しなやかさをもつ心の広い人材ということですね。最後に青柳さんの夢をお聞かせください。
青柳
ポンペイの遺跡から少し離れた場所に、手つかずの遺跡が見つかったんです。そこを調査しても良いという話を受けて、でも約20億円の費用がかかるんです。若い頃なら後先考えずに始めてしまったでしょう。しかし、この年齢になるとさすがに慎重になってしまいます。遺跡発掘というのは誰にでもできることではなく、現地で信用されるまで何十年という時間がかかってしまう。費用については私から働きかけてでも、他国と共同で行うグローバルな発掘を若者たちにぜひ経験してもらいたいと思っています。
青柳 正規(あおやぎ まさのり)

大連出身、1944年生まれ。東京大学文学部美術史学科卒業後、ローマ大学に留学。古代ギリシャ・ローマ美術史研究の第一人者として30年以上にわたって地中海各地の遺跡発掘調査を実施。東京大学文学部助手、筑波大学を経て東京大学教授。東京大学副学長、国立西洋美術館館長、文化庁長官を歴任。現在、東京大学名誉教授。「皇帝たちの都ローマ(中公新書)」など、著書多数。