東北学院大学

法学部

陶久教授のドイツ留学日記(60)

2016年06月02日

 【ルター訳聖書】
 4月中頃、私の好きなPetra Gersterさんがナレーターを務め、ルターの人生を紹介するZDFのテレビ番組がありました。影響を受けやすい私は、早速次の日に町の古本屋さんでルター訳聖書を買い求めました。「聖書」故、ネットで買うには一定の制約がありそうですし、書店に並んでいるかどうかはわかりません。その点、古本屋のほうが確実です。店主に要望を伝えると直ちに、「そこの本棚の一番下にある金色のやつ」と指示してくれます。取り出したのは、M.Merian(1593-1650)の手になる挿絵入りのきれいな本。旧約は1964年、新約は1956年の改定版です。紙の質は今一つですが、何と5ユーロ。「安いでしょ?」と店主もニコニコと薦めます。
 値段もさることながら、驚いたのはそのドイツ語の平易なこと。勿論、文章表現に古めかしい所が若干あるものの、表記法は現代風で読みやすい。テキストには何度か学問的検討が加えられていますが、骨格はルター訳のまま。現在でも使われています。
 実はルター以前にもドイツ語訳聖書は複数ありました。しかし、ルター訳は次の二点で画期的だったのです。一つは、ヘブライ語やギリシャ語からの初めてのドイツ語訳でした。もう一つは、一般の人が理解できるよう平明な表現法に心を砕いたのです。彼一人の偉業ではなく友人のメランヒトンらの協力も欠かせなかったでしょうが、彼が中心になって進めた一大事業であることは確かです。訳業に没頭したというEisenachのお城が、遅まきながらルター訳聖書に初めて接した私を呼んでいるようです。

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法学部教授
陶久利彦