東北学院大学

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カーネギーメロン大学と本学の研究グループが球面誘導モータとこれを用いた全方向移動ロボットを開発

2016年10月06日

 本学工学部の熊谷正朗教授は米国カーネギーメロン大学のRalph Hollis教授らのロボット研究グループに参画し、ともに球面誘導モータを開発しました。さらに同グループがこの球面誘導モータを活用したロボットを開発しました。

以下、カーネギーメロン大学によるプレスリリースの翻訳版をお知らせします。
原文:Omnidirectional Mobile Robot Has Just Two Moving Parts


二つの動作部品のみをもつ全方向移動ロボット 
~球面誘導モータによるロボットの駆動機構の削減~


 10年以上前、Ralph Hollis はballbot を発明しました。これは、細く縦長のボディを持ち、ボウリングの球より少し小さい球の上に立って滑るように動く、洗練されたシンプルなロボットです。SIMbotと名付けたその最新版は、たった一つの可動部である球を持つ、同様に洗練されたモータを搭載しています。
 もう一つの動く部分はロボットの胴体のみです。
 球面誘導モータは、米国カーネギーメロン大学ロボット研究所 (Carnegie Mellon University, Robotics Institute) の研究教授である Hollisと東北学院大学工学部教授  熊谷正朗 によって発明されました。これにより、それぞれの以前のロボット (訳注:Hollisらによるballbot および 熊谷らによる玉乗りロボットBallIP, および派生して開発されたロボット類) の球の機械的な駆動系が不要となりました。この、劇的な機構の簡略化により、SIMbot は必要なメンテナンス作業が低減し、機械的なトラブルが発生しにくくなります(詳細は映像で紹介)。
 この新しいモータは電子制御的手法のみによって球を任意の方向に回転させることができます。この回転により、SIMbotの胴体姿勢を球上で維持します。
 SIMbotと従来の機械的駆動系によるballbotの基礎的な比較実験を行った、Hollis研究室の最近の大学院修士卒業生であるGreg Seyfarthによれば、SIMbotは同等の速度を実現し、かなり速い人の歩行速度に相当する毎秒1.9mで移動できます。ただし、現状では効率については同等の性能は得ていません。
 誘導モータそのものは新しい原理ではありません。誘導モータは、モータの回転部であるロータに対して、電気的な接続をすることなく、磁場によって電流を生じさせます。本成果で新しい点はロータが球であること、巧みな数学と進んだソフトウエアによって三つの軸周りの回転を任意に組み合わせることができ、全方向への回転を可能とします。他の球面誘導モータの開発の試みと比較し、Hollisと熊谷は、方向の制限や回転角度に制限のない、球の全方位への回転を可能としました。
 一方で、Hollisによれば、従来のモータと本試作モータのコストを比較することは時期尚早で、長い目で見ればこの技術は本質的には有利となります。
 このモータは多くの電子回路とソフトウエアに依存しており、この点については今後低コスト化が進むのに対して、(従来機の)機械的な構成はそれほど低コスト化しないと説明しています。
 SIMbotの機械的な単純さは従来のballbot等のロボットに対する大きな利点です。そもそも、Hollisらによる形式のロボットは、人間生活環境において、人とともに動作するのに適しています。ロボットの胴体がモータの球の上で動的にバランスをとるため、ballbotは人間と同じような背丈でありながら、ドアや家具の間を移動できる十分に細いロボットです。このようなバランスをとるロボットは本質的に従順で、必要なら人が押しやることもできます。また、人が椅子から立ち上がるのを手伝ったり、荷物を運んだり、身体的に人を誘導したりすることもできます。
 現在までは、ロボットの姿勢を維持するために球を転がすには、機械的な手段が必要でした。たとえば、Hollisのballbotでは、”逆マウスボール”型の方法を用いており、球に押しつけたローラを4個のモータで駆動することで床面上を任意の方向に移動させており、5個目のモータで鉛直軸周りのロボットの動作をつくっていました。
(訳注:以前のコンピュータ用のマウスでは、マウスを動かすことで球が回転し、球に接触したローラが回転して移動量を計測していた。ballbotでは逆にローラを回転することで球の回転としている。熊谷らによるBallIPでは円周上にローラのある特殊な車輪3個の回転によって球を鉛直まわりと移動方向をあわせて任意の方向に回転させている。)
 ロボット工学専攻の博士課程学生である Michael Shomin によれば、このローラを駆動するためのベルトがすり切れて交換する必要があり、交換するたびに再調整が必要となるそうで、新型モータの可動部のない固体のシステムはこの手間暇のかかる作業が不要となります。
 球面誘導モータのロータは精密に加工された中空の鉄球に銅の外層をかぶせたものです。3相の巻線群を組み込んだ6個の積層鋼板製のステータによって、この球に電流が誘起されます。これらのステータは球面からわずかに浮かせた位置に近接して配置されています。
 この6個のステータは球面上を進行する磁場の波を生成し、これにより球が進行方向に動きます。この磁場の方向はステータの電流を変えることによって調整されます。
 Hollisと熊谷は共同でこのモータを設計開発し、ロボット専攻博士課程学生Ankit Bhatiaとザルツブルク応用科学大学からの客員科学者 Olaf Sassnick がballbotに使用できるように適合させました。
 機械的な駆動系を削減したことで、従来のballbotにあった様々な摩擦要素を取り除いていますが、Hollisによれば、最終的にエアベアリングを導入することですべての摩擦が事実上除去できる見込みです。現状では受動のローラ(ボールキャスタ)で支持していることに対し、モータ内の球とロボット本体は空気のクッションによって分離されます。
 Hollisによれば、モータ性能の最適化をしていない現状でさえ、SIMbotは素晴らしい性能を示しており、SIMbotの技術はballbotをはじめとする1球による移動ロボットをより利用しやすく、広い用途に対して実用的にすることができるとしています。

 本研究はアメリカ国立科学財団(The National Science Foundation: NSF)と日本の科研費補助金の支援を受けています。また、この研究については、5月にストックホルム(スウェーデン)において開催された国際会議ICRA(IEEE International Conference on Robotics and Automation)にて発表しました。

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SIMbotと担当した学生の一人Greg Seyfarth SIMbotに搭載した球面誘導モータ
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本学内で開発した球面誘導モータの最初の試作機

カーネギーメロン大学について

Carnegie Mellon(http://www.cmu.edu)は国際的に著名な米国の私立の研究大学であり、科学・技術から経営学・公共政策・人文科学・芸術までにわたる教育を行っており、ロボット分野でも最先端の研究所を有しています。

本件の問い合わせ先

工学部機械知能工学科 熊谷正朗 kumagai@mail.tohoku-gakuin.ac.jp